
連載
蓬萊学園の揺動!
Episode02
いずれ学園の危機を救うことになる
ヒロインは授業に出席した!(その2)
京太くん、私と一緒に首をひねります。
確かに校則では、学園生徒は、四つまで部活に所属することができます(なぜ上限が決まっているかといいますと、それ以上の課外活動に熱中していたら授業に出てこなくなり、ついには留年し、しかもそのまま所在不明になって老人になって学園のどこかに棲みついてしまうから……といったことが、それこそ半世紀くらい昔に”統計的に実証された”んだ、と京太くんから聞きました)。
「そのとおり。記録によれば、一九六〇年代までは参加可能な団体は上限無しだったんですが、学園史上に名高い〈ヤムイモ政変〉の後に禁止令が出たそうで。だから、それ以前から生徒な人たちは今もそのへんに暮らしてる人がいるらしくて――もうそろそろ八十代ですかね、そういうお方は」
「へえ〜〜」
「そよ子さんはあと二つ入部できるから、そこを狙ってるってことなんですかねえ。弱小クラブが人数を欲しているのか……それにしても……」
そしたら。
今後は反対側から
「そよ子……そよこおおぉ!……」
怪しげな影が、おお、窓の外から、じゃなかった階段状に並んだ椅子と机の隙間から、こちらへにじり寄ってくるのです!
見たこともない先輩たちが、見たこともないチラシを押し付けてきます。
ああ、ああ!
わたしは必死に目を逸らしますが、ああ、それも手遅れ! わたしの視界はチラシの文字に覆われてしまうんです。もうダメ。もう耐えられません。フォントが、とっても大きなフォントが、わたしの視界に! ああ、ああ! 文字が、文字が目の前にあるのに、読まないでなんていられません(わたし、こう見えても読書家なんです)!
ダメ、ダメ! もう我慢できません! わたし、グラグラ揺れてます。心も体も限界です。とうとうチラシに視線を向けます。陰謀論部。
陰謀論部!
「読んだな……読んだな、一年生!」人の形をした影が叫びます。わたしは震えながら頷くしかありません。
隣から「そりゃこの人たちも生徒ですから、人の形はしてると思いますけど」と京太くんのノンキなツッコミが聞こえてきますが、この際そんなことはどうでも良いのです。
わたしが、読書が大好きで文字を読まずにはいられないわたしが、ついにチラシの文字を読んでしまったことが肝要なのです! 肝にして要! ああ! いやここはもうちょっと荘厳に、嗚呼! もうわたしの魂は穢されてしまいました! もう戻れない! 嗚呼、嗚呼、嗚呼!
と、その時。
「――新入生に優しくせえへんのやったら、生きてる資格はないで」
低い、よくとおる声。
不敵な笑顔。
とたんに陰謀論部の先輩がたは、チラシで顔を隠しながら、教室の隅の暗闇の中へと逃げてゆきます。
それは――その声の主は――ああ、美女です! 巨大美女です!
知る人ぞ知る女子寮自警団・副団長アミナータ・ロシーン・ザラ・リァダン。横文字で書くとAminata Roisin Zara Riordan、通称「アミ」先輩だったのです!
「勧誘、ホンマようけ来よるねえ」
アミ先輩、わたしの左隣に座ります。おっきいです。身長190cmです。
ちなみに彼女のホントの本名はもうちょっと長くて、全部で10個ほどいろんな言語の素敵な響きが並ぶのですが、ここでは省略してます(彼女は16の民族の血を引いていて、それこそアイルランドからロシアからカメルーンの王族に至るまで、ご先祖さまがあちこちに眠っていらっしゃるのだと、女子寮の入寮式の時に伺いました)。
じつはこの二週間、アミ先輩は、ずっとわたしのことを陰から守ってくれてるのです。これまでは主に放課後でしたが、今日はどうした風の吹き回しか、午前中の教室にまで!
なんて素敵なのでしょう!
私、思わず、
「先輩!」
と抱きつきます。先輩のタンクトップの胸にわたしの上半身がぜんぶ埋まって、しかもまだ余分があります。(それにしても、どうして先輩はわたしたちと同じ制服を着てないのでしょう?謎は深まるばかりです。)
アミ先輩をなんと表現しましょう? 体を何に例えたら、この感動が伝わるでしょうか?
筋肉!
いいえ、その一言では、あまりにもみすぼらし過ぎます。
汗で煌めく白皙の肌、その下で存在感を発揮する艶かしい筋肉の群れ!
――安心できる体格。
そう、まさにそれです。
『ヒロアカ』のミルコ(病院での負傷前)とクヴァ族最強の女戦士・ライザを足して2で割らずに『あばしり一家』の法印大子方向へ放り投げた感じです。
気がつくと、アミ先輩、私のほうをじいいいっと見つめてます。熱い視線です。
なんてことでしょう、もしかしてアミ先輩ったら、わたしのことを××してくださってるのでしょうか。だからこそ、こんなにわたしを護ってくださるのでしょうか。
でも、わたしには既に、北白川紫苑さまという恋しい御方が。
わたし、先輩の視線をもう一度よ〜く観察しまして、あれれやっぱなんか違うな〜と思っておりますと、先輩たら、わたしの隣の京太くんを見つめてるのでした。
見とれている、と言ったほうが良いかも。
でも京太くんはそんな彼女の熱い視線に、ペコリと会釈しただけ。なんでやねん。まわりの人の表情を読み取るのが上手なんと違ゃうんかいワレ。
と、内心思わず偽関西弁になってしまうわたし。
アミ先輩の視線に反応しないなんて、おかしいです。先輩、とっても綺麗なのに。カッコいいのに。安心できるのに。それなのに。パッと眺めただけでも、
――ちょっとだけ赤みがかった、素敵な金髪巻き毛。
――日焼けした肌。
――鼻の頭の可愛らしいソバカス。
――そんでもって筋肉(既出)。
いろんな皆さんの性癖に見事に応えてます。
あら、「性癖」だなんてわたしったら、はしたない言葉を。
「いやその言葉は問題ないですよ」と京太くん。「むしろ近年の用法のほうが、字面に引っ張られて歪んでしまってるだけで」
「あ、そうなんですか」
「ダメなら校閲さんが伏せ字にしてくれますよ。それよりも、確かにこんなに勧誘が続くんじゃ勉強もできやしない」
「せやなあ」アミ先輩も(相変わらず京太くんを見つめながら)うなずきます。「特に陰謀研界隈は厄介やしな」
「界隈?」
「せやで」
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