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“門外不出”のはずだったファーストパーティタイトルのライバル機向けリリースが急増中。その理由を探ってみる
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プラットフォーマーやその子会社が権利を持つ,いわゆるファーストパーティタイトルがそのプラットフォーム独占になるのは当然として,サードパーティのタイトルがどのプラットフォーム向けにリリースされるかはプレイヤーにとっての重大事項となってきた。
特に人気シリーズ作品の“移籍”は大きなニュースとなったほか,最終的に複数のプラットフォーム向けにリリースされるタイトルであっても,その時期にはバラつきがあったため,多くのプレイヤーはやきもきすることとなった。また,各ゲーム機の性能が大きく異なっていた時代は,プレイ中のフレームレートなどに差が目立ち,それがネットで取り上げられることも多かった。
だが,PCに近いハードウェア構成を採用したPS4やXbox Oneが発売されたあたりから,PCを含むマルチプラットフォームでのリリースが主流に。独自のハードウェア構成や操作デバイスを採用する任天堂プラットフォーム以外での独占タイトルは減少していった。
そしてここ数年では,かつて門外不出だったファーストパーティタイトルが,PCだけでなく,ライバルコンシューマゲーム機向けにリリースされるケースが増えてきた。「『みんなのGOLF』が任天堂のゲーム機で遊べる」「『Gears of War』の新作がPlayStation向けにリリースされる」といった,数年前なら妄言扱いされそうなことが現実になっているのだ。
もしかしたら,プラットフォームという“ベルリンの壁”の崩壊が始まったのだろうか? 本稿では,そんなタイトルの数々を紹介すると共に,リリースの背景を探ってみたい。
まずは,2025年にリリースされた,またはリリース予定のタイトルから,ライバルプラットフォーム向けのファーストパーティタイトルを抜き出してみよう。
Nintendo Switch向けのPlayStationファーストパーティタイトル
●FREEDOM WARS Remastered
発売日:2025年1月9日
発売:バンダイナムコエンターテインメント
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●パタポン1+2 リプレイ
発売日:2025年7月10日
発売:バンダイナムコエンターテインメント
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●みんなのGOLF WORLD
発売日:2025年9月4日
発売:バンダイナムコエンターテインメント
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※3タイトルはいずれも発売元がバンダイナムコエンターテインメントだが,コピーライトにはソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)の表記があるため,SIEが現在も権利を有していると思われる
Xbox Series X|S向けのPlayStationファーストパーティタイトル
●HELLDIVERS 2
発売日:2025年8月26日
発売:PlayStation Publishing
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PS5向けのXboxファーストパーティタイトル
●Forza Horizon 5
発売日:2025年4月29日
発売:Microsoft
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●Age of Mythology: Retold Standard Edition
発売日:2025年5月15日
発売:Microsoft
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●Gears of War: Reloaded
発売日:2025年8月27日(国内向け発売はなし)
発売:Xbox Game Studios
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※Bethesda SoftworksやActivisionなど,Microsoftの子会社がリリースするものも広義のファーストパーティタイトルと呼べるが,ここでは除外している
SIEからのリリースが難しくなったタイトルを生かす道!?
ライバルプラットフォームにファーストパーティタイトルをリリースしているのは,SIE(PlayStation)と,Microsoft(Xbox)の2社。いずれのタイトルも自社プラットフォームで人気を博したシリーズの作品だが,両社の思惑には異なるところもあるようだ。
2社の違いとして目立つのは,SIEが自社に加えてサードパーティ(バンダイナムコエンターテインメント)から発売する形も取っていることだ。「FREEDOM WARS Remastered」「パタポン1+2 リプレイ」「みんなのGOLF WORLD」のコピーライトには「Developed by Bandai Namco Entertainment Inc.」とあるので,おそらくSIEは各タイトルのIP(知的財産)を貸す程度の関与にとどまり,開発の実作業には深く関わっていないと思われる。
せっかく育てたIPを,なぜ自社でリリースしないのか? それは,「FREEDOM WARS」「パタポン」「みんなのGOLF」といったシリーズの新作を自社で手がけることは,巨大化した現在のSIEにとって採算が合わなくなったからのようだ。これらのIPの新作が近年途絶えがちだったこと,開発を手がけていたSIEジャパンスタジオが事実上の閉鎖となったことも,同様の理由からだろう。
PlayStation開発部門のトップを長らく務め,2025年1月にSIEを退職した吉田修平氏は,ジャパンスタジオが得意とするゲームにとって,ゲーム市場が非常に厳しいものになったことが閉鎖の一因だと海外向けのポッドキャストで語ったという(外部リンク)。
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SIEジャパンスタジオは,前述のIP以外にも「パラッパラッパー」「SIREN」「ロコロコ」「GRAVITY DAZE」など,革新的なアイデアを取り入れたタイトルでPlayStationプラットフォームをその初期から支えてきたが,近年においては,いわゆるAAAタイトルと呼ばれる大規模なものは少なくなっていた。そのあたりが,現在のSIEが求めるものとのズレとなったのだろう。
ジャパンスタジオのゲームを楽しんできたプレイヤーにとっては寂しい話だが,同スタジオのIPの多くは,まったく動きがないままお蔵入りになる可能性もあったのではないだろうか。「FREEDOM WARS Remastered」「パタポン1+2 リプレイ」「みんなのGOLF WORLD」のSwitch向けリリースは,半ば休眠状態となっていたIPを再生させるため,SIEやバンダイナムコエンターテインメント,その他の関係者が奔走した結果なのかもしれない。
Xboxは,もはやプラットフォームではない!?
さて,一方のMicrosoftがPlayStation 5向けにリリースする(した)のは,「Forza」「Gears of War」という,Xboxを代表するAAAシリーズタイトル,言葉を換えれば“稼ぎ頭”だ。
ちょっと前であれば考えられないような施策だが,これは,Microsoftがこの10年ほどをかけて,“プラットフォーム”というものの捉え方を変化させてきた結果のように感じられる。
Microsoftは2016年のE3で,「Xbox Play Anywhere」を発表した。これは,Xbox OneとWindows 10の両プラットフォームに向けてリリースされるタイトルの一部が対応するプログラムで(と言っても,Microsoftのタイトルはほぼすべてが対応),「一度購入すれば,Xbox OneでもWindows 10でもプレイできる」というものだった。
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言ってみればXboxとWindowsを同一のプラットフォームとするようなもので,プレイヤーの裾野が広がる期待があった一方,PCゲーマーがXbox One本体を購入する必要性をなくす側面もあったため,当時としては思い切った決断と受け取られた。
ライターの西川善司氏は,「Xbox Play Anywhere」の発表を伝える記事で,以下のように語っている。
今後Microsoftは,Xboxという据え置き型ゲーム機を,「独自のゲームプラットフォーム」ではなく,「ゲームというサービスを提供するための,商材の1つ」として扱うようになるだろう。そしてそのとき,Xbox OneとWindows 10ベースのゲームPCを,完全に等価な「ゲームというサービスの提供対象」として扱っていく。Xbox Play Anywhereプログラムは,そんな大胆な新戦略の第一歩なのではないだろうか。
[E3 2016]西川善司の3DGE:E3 2016で見えたMicrosoftのXbox戦略(3)Xbox Play Anywhereがあれば,もうゲーム機はいらない!?
![[E3 2016]西川善司の3DGE:E3 2016で見えたMicrosoftのXbox戦略(3)Xbox Play Anywhereがあれば,もうゲーム機はいらない!?](/games/990/G999025/20160615147/TN/001.jpg)
E3 2016のタイミングで,Microsoftは,Xbox One用タイトルを購入すると,それをWindows 10ベースのPCでもプレイできる「Xbox Play Anywhere」戦略を発表した。連載「西川善司の3Dゲームエクスタシー」,今回は,その戦略の背景にあるMicrosoftの狙いと,それがゲーマーにもたらす影響について考察してみたい。
それから約9年が経過し,ゲーマーの間にXbox≒Windowsという認識はかなり浸透した。「Xboxの本体を持っていないXboxゲーマー」はかなりの数にのぼるだろう。Xbox Series X|S&Windows 11世代で継続されていることからも,MicrosoftはXbox Play Anywhereを成功と見ていることが推測できる。
そんなMicrosoftが次に選んだのがPlayStationということになる。同社にとって,PlayStation 5向けのリリースは「ライバルプラットフォームへのファーストパーティタイトル提供」といった大仰なものではなく,企業としてはごく当たり前な「自社サービスを新たな場所で提供する」ぐらいの姿勢なのかもしれない。
Microsoftが日本時間の2025年6月9日に開催したオンラインイベント「Xbox Games Showcase 2025」では,それを裏付けるような出来事があった。
通常,こういったプラットフォーマー開催のイベントで流れるトレイラーには,例えそれがマルチプラットフォームタイトルであっても,そのイベントのプラットフォームのロゴしか表示されないのが常だった。しかし「Xbox Games Showcase 2025」では,Microsoftが自社でリリースする「The Outer Worlds 2」をはじめとした多くのタイトルのトレイラーで,PS5のロゴが表示された。こういったイベントを毎回追っているゲームメディア側からすると,これはなかなかの“事件”だった。
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「Xbox Games Showcase 2025」では,携帯ゲーム機「ROG Xbox Ally」が発表されたことも話題となった。OSにWindows 11を採用し,Xbox以外のPCゲームストアも利用可能になっているとのことで,ハードウェア的にはPCと表現して差し支えなさそうだが,そこにXboxの名が付けられたのは興味深い。
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そして北米時間の6月24日には,Meta Quest初の限定版となる「Meta Quest 3S Xbox Edition」が発表された。本体はXboxのブランドカラーである黒と緑があしらわれた特別デザインで,通常のTouch Plusコントローラーに加えて,限定版Xboxワイヤレスコントローラーが付属する。
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Xbox用のVRヘッドマウントディスプレイは存在しないので,競合製品には当たらないのかもしれないが,他社製プラットフォーム向けのゲーム機に「Xbox」の名が付くのは,なかなか衝撃的ではある。
こういった件からも,Microsoftのプラットフォームに対する考え方は,かつてのものから大きく変化したことがうかがえる。この流れが進めば,例えば“PlayStation向けXbox Game Pass”のような,今では笑い話として受け取られそうなサービスが提供される日も来るかもしれない。
「企業としての経営判断」か,「ゲームメーカーとしての矜持」か
SIEとMicrosoftそれぞれの背景を説明したが,さらに大元を辿っていけば,開発費用の高騰,ここ数年続いているゲーム業界の不景気といった共通の要因に行き着くように思う。
膨らみ続けるコストをペイし,業績を上げるためには,より売れるゲームにしなければならない。当然,売る相手も多い方がいいのだから,自社プラットフォームに限らず,売れるところがあるなら売ろう……という流れの結果が,ライバルプラットフォームへのファーストパーティタイトル提供なのではないだろうか。プレイヤーの数がゲームの面白さに大きく影響するオンラインマルチプレイタイトルであればなおさらだ。
より多くの人がゲームをプレイできるようになり,プラットフォーマーの利益も上がるなら,自社プラットフォームだけのリリースにこだわる必要はない。SIEがヒット作の「HELLDIVERS 2」をXbox向けにリリースする理由もここにあると思われる。
5年ほど前にMicrosoftがBethesda SoftworksやActivision Blizzardを買収したとき,「The Elder ScrollsやCall of DutyシリーズがXbox独占になるのでは」といった声が一部で上がったが,今のところ,そういった超人気シリーズの独占は行われていない。
Microsoftに買収される前のBethesdaやActivisionは,当然ながらPlayStationプラットフォームへの販売を含めて業績を上げており,Microsoftは買収に当たってその企業価値に見合った金額を支払った。いきなりPlayStation分をなくすのには,親子共々相当の覚悟が必要なことは想像できる。
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このように,新たな市場(ライバルプラットフォーム)に進出するのは,企業として自然なことではある。ただ,自社プラットフォームの個性,ブランド力といったところが薄まっていくデメリットは否定できない。SIEやMicrosoftとは対照的に,任天堂は独自性の強いプラットフォームを保持し,PCや他社製コンシューマゲーム機向けのリリースはしていない。新たな市場から得られる利益より,マリオやゼルダといったIPを手元に置いておくことのメリットが大きいという判断なのだろう。
このあたりは,「企業としての経営判断」と「ゲームメーカーとしての矜持」の違いとも取れて,非常に興味深い。
SIEがPC向けにファーストパーティタイトルをリリースしていることを踏まえれば,PC,PlayStation,Xboxの融合がさらに進んでいくことも予想できる。ゲームプラットフォームが,任天堂と,PSとXboxを含むPC,スマホ(iOS / Android)の3つに再編される未来も,十分にあり得るのではないだろうか。
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