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[インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い
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印刷2025/08/30 12:00

インタビュー

[インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い

作曲家 林ゆうき氏
画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い
 アニメ作品において,映像やセリフと並んで重要な役割を持つのが劇伴音楽だ。キャラクターたちの感情を繊細に表現したり,バトルを熱く盛り上げたり――。数々の名シーンは,映像を彩る音楽があったからこそ生まれたと言えるだろう。

 今回4Gamerでは,「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」などのアニメはもちろん,TVドラマや映画など幅広いジャンルで活躍する作曲家 林ゆうき氏にインタビューを行った。
 2025年9月に開催されるアニメ劇伴フェス「京伴祭」に込めた想いも含め,たっぷりと話を聞いたので,ぜひ最後まで楽しんでほしい。

林ゆうき氏が音楽制作に携わった主な作品(抜粋)


テレビドラマ
「ストロベリーナイト」シリーズ
「絶対零度〜未解決事件特命操作〜」
「リーガルハイ」シリーズ
「DOCTORS〜最強の名医〜」
「緊急取調室」
連続テレビ小説「あさが来た」

映画音楽
「アオハライド」
「ONE PIECE FILM GOLD」
「プリキュア」シリーズ
 (「ドリームスターズ!」「ミラクルユニバース」「オールスターズF」ほか)

テレビアニメ
「ガンダムビルドファイターズ」
「ハイキュー!!」
「僕のヒーローアカデミア」
「メダリスト」

ゲーム音楽
「アリスオーダー」
「春ゆきてレトロチカ」


「京伴祭 2025」公式サイト



音楽と映像が一体になった感動
男子新体操から始まった林氏の音楽キャリア


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします! 林さんのスタジオに初めてお邪魔しましたが,とてもステキなところですね。

林ゆうき氏(以下,林氏):
 ありがとうございます。家族とも暮らしつつ,この建物全体をスタジオとして使っています。

林氏のスタジオは,夏休みということもあってご家族も一緒に過ごしており,インタビュー中もペキニーズ2匹のペットや子どもたちが出入りする,賑やかで楽しいひとときだった(写真下の赤ちゃん用ベッドに侵入しているのは長男 とらのすけくん)。
ちなみに,林氏には生まれたばかりの第4子がおり,4人のお子さんの父親でもある。インタビュー当日も,良きパパぶりを見せてくれた(林氏のポストより
画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い 画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い

4Gamer:
 林さんにお話をうかがうのは今回が初めてなので,まずは自己紹介からお願いできますか。もともとは男子新体操の選手だったそうですね。

林氏:
 はい。僕は京都出身で,通っていたのは府内に男子新体操部がある2校のうちの1つでした。
 今でこそ人気も出てきていますが,当時はまだ男子新体操のイメージが浸透していなかった時代だったんです。だから,みんな新体操部であることを隠して新入生を勧誘していました。
 「バク転ができたらアイドルみたいでかっこいいし,女子にもモテるよ!」って(笑)。

 それで僕も入部したんですが,実際にやってみるとすごく楽しくて……。2年生になったら,自分も「新入生を勧誘しに行くぞ,道具を隠せ!」って言う側になっていました(笑)。

4Gamer:
 まさかそんな裏事情があったとは(笑)。確かに,当時と今では男子新体操のイメージもずいぶん違いますよね。

林氏:
 最初は,新体操と器械体操の違いすら分かっていなかったんです。大きな違いは,新体操では伴奏の音楽を使うけれど,器械体操では使わないという点ですね。
 いろいろな選手の映像を見ることも多いし,みんなで「この曲で踊りたい」って曲を持ち寄ったりもするので,当時は本当にたくさんの音楽を聴いていました。

4Gamer:
 今はルールが変わったそうですが,当時は歌入りの曲は使えなかったとか。

林氏:
 そうなんです。この世にある無数の音楽の中から,みんなが“かっこいい”と思うインスト曲を探して,練習中もそれ以外の時間もたくさん聴いていました。

 何かのサントラのメインテーマだったり,敵を倒すときの勇ましい曲だったり……そういう音楽が自分の中にどんどん蓄積されていったんだと思います。
 ただ聴くだけではなく,踊りと音楽を合わせることもやっていたわけです。「ここで曲にこういう展開があれば盛り上がるぞ」みたいな。言ってみれば,映像と音楽の融合を体験していたんですよね。

4Gamer:
 なるほど。今のお仕事にもつながる経験ですね。

林氏:
 それで言うと,面白かったことがあるんです。当時は音楽を流すのにカセットテープを使っていて,先輩が踊るときは後輩が曲をかけるんですが,A面B面や頭出しの関係で,曲を間違えて流してしまうことがあったんですよ。

 でも試合のルール上,やり直しはできないので,たとえ模擬練習でも先輩は最後まで踊りきらないといけないんです。普段はオーケストラ音楽で踊る選手が,突然フラメンコで演技する羽目になったりして……(笑)。

 もちろん,その場で振り付けを変えることはできません。たとえて言うなら「料理は一緒だけど器が違う」みたいな感じですね。そのとき,「同じ音楽や踊りでもこんなに違って見えるのか」と,化学反応みたいな面白さを強く感じました。

4Gamer:
 そこから音楽に興味を持って,自分でも作ってみるようになったんですね。

林氏:
 編集から始めて,その後に作曲をするようになりました。僕は音楽を専門的に学んできたわけでもないし,特別音楽好きだったわけでもなかったんですけど,新体操ならルールも選手の感覚もよく分かるからできるだろうと。ちゃんと音楽制作を始めたのは,大学3年のころだったと思います。

4Gamer:
 1つ疑問なんですが,作曲はもちろん,最初は編集も難しかったんじゃないですか。

林氏:
 それが最初はもう本当に初心者レベルで。既存曲のつなぎ目をクロスフェードさせるところにシンバルの「ジャーン」という音を入れて,「わーい! つなぎ目が分からなくなったぞ!」と喜んでいたくらいです(笑)。

 そこから少しずつ技術を上げていった感じですね。知識もスキルも十分ではありませんでしたが,男子新体操界には知り合いが多かったので,伴奏音楽の制作を仕事として続けることができました。

4Gamer:
 そう考えると,パソコンで音楽が作れる時代になっていたのも大きいですよね。もっと昔だったら,楽器ができないと作曲自体が難しかったと思います。

林氏:
 本当にそう思います。今もよく,「僕は電気がなくなったら廃業する」と冗談で言うくらいです(笑)。

4Gamer:
 そして,作曲家の澤野弘之さん(アニメ「機動戦士ガンダムUC」「進撃の巨人」ほか多数)にデモテープを送ったことが,今の道へ進むきっかけになったそうですね。

林氏:
 はい。6〜7年ほど音楽活動を続ける中で,「サウンドトラックの世界に挑戦してみたいな」と思うようになったんです。選手たちの間では「この人の音楽で踊りたい!」とよく名前が挙がっていたのが澤野さんで,こんなにすごい人がいるんだと驚きました。

 思い切ってデモを送ったら,お返事をいただけて,そこから今につながるご縁ができたんです。

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映画やTVドラマ,アニメの劇伴の違いとは?
制作の流れやエピソードについて聞く


4Gamer:
 ここからは,実際の音楽制作についてお聞きしたいと思います。ある作品の音楽を担当されることになったときは,まず何から始めるのでしょうか。たとえばアニメ作品の場合は,原作コミックを読むところからですか?

林氏:
 そうですね。まずは作品をリサーチして,「どう料理しようかな」というところから考えます。
 ただ,のめり込みすぎると先入観が生まれてしまうんですよね。通常は,オーダーを受けて音楽を作るので,まずは監督や制作陣がアニメをどう作りたいのかを打ち合わせで聞き,自分のアイデアを混ぜ込みながら音楽を仕上げていく,という感じです。

4Gamer:
 なるほど。では,実際に曲づくりに入るときは,どんなことから始めるのでしょうか。

林氏:
 僕の場合は,無数にある選択肢を削っていく作業から始めますね。「ご飯作って! おいしければなんでもいいよ」と言われると困るじゃないですか(笑)。
 だから,「昨日は中華だったの? じゃあ今日はさっぱりしたものにしよう」「肉と魚ならどっちがいい?」……そんなふうに確認していくと,注文側が求めている方向性が見えてきます。

 なんとなく作り始めるというよりは,まずコンセプトを決めて,使用する楽器やソフトを先に選ぶんです。そうすると迷う時間を減らせます。

4Gamer:
 確かに,林さんのお仕事って「メロディを作る」だけじゃなく,1から10まで音楽を組み立てることですよね。オーケストラみたいに,すべての楽器をどう鳴らすかまで考えるわけじゃないですか。……もうベートーヴェンとかチャイコフスキーの領域では!?(笑)

林氏:
 いやいや……(笑)。ベートーヴェンなんて,晩年に耳が聴こえなくなっても作曲を続けていたんですよ。僕からしたら考えられないくらいすごいです。

4Gamer:
 曲を作るときって,最初から完成形が頭に浮かんでいるんですか? それとも,作りながら調整していく感じでしょうか。

林氏:
 漠然としたイメージはありますが,作りながら方向性を寄せていく感じですね。「こっちのほうがいいな」「これが合っているな」と確かめながら進めます。

 メロディがない曲も多いですが,メロがある場合は最後に作ることが多いです。まずアレンジやトラックを作って進行を決めてから,「この雰囲気ならこのメロディだな」と決めていくんです。

 先ほど「すべての楽器」という話が出ましたが,確かに全体のバランスは意識します。同じ作品内でも,ある曲でギターを使ったら,別の曲ではピアノにしたり。そうやって曲同士の役割を分けています。

4Gamer:
 映画とTV作品では,制作方法もかなり違うのでしょうか。

林氏:
 映画の場合は「フィルムスコアリング」といって,たとえば2時間の作品なら「ここにこういう感じの音楽が欲しいです」というリクエストを受けて,映像に合わせて音楽を作ります。

 一方で,TVドラマやアニメのような連続作品では「選曲スタイル」になるんですよ。音響監督さんや選曲家の方からメインテーマといくつかのシチュエーションのリクエストをいただいて,作品性やストーリーに合わせて曲を作ります。そこから担当の方がシーンごとに音楽を選んで編集し,映像に当てていくんです。

4Gamer:
 なるほど。では,TVドラマとアニメの違いはどんなところにありますか。

林氏:
 まずは曲数ですね。アニメのほうが尺が短いこともあって50曲くらい,ドラマだと2〜30曲くらい作ります。
 それから,TVドラマは現代劇が多いので設定に制約があります。対してアニメは「なんでもあり」な場合が多く,使える楽器やジャンルの幅はかなり広いですね。

 たとえば現代日本を舞台にした恋愛ドラマでサンバは流れないかもしれませんが,アニメならもっと自由です。しかもバトルシーン1つ取っても,「バトル1は戦いが始まったばかりの膠着状態」「バトル2は一進一退の攻防」「バトル3は大逆転!」といった具合に,シチュエーションごとに細かいオーダーをいただくこともあるんです。

4Gamer:
 そうなると,特にアニメ作品では多岐にわたるジャンルへの理解も必要になってきますよね。あらためて,すごいお仕事だなと感じます。

林氏:
 僕も参考のためにいろいろなジャンルの曲を聴きますが,最近はSpotifyのおかげで「あなたへのおすすめ」で知らない曲をたくさん聴けるんですよ。
 でも,その作品が終わってからも延々とおすすめされると,「もう散々聴いたからやめて!」ってなったりします(笑)。

スタジオにある巨大な棚には,林氏が手掛けた作品のフィギュアや映像パッケージなどが並ぶ
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数年前,ファンから贈られたフラスタに飾られていたガンプラは,今も大切に保管されていました(関連記事
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4Gamer:
 林さんは本当にたくさんの作品の音楽を手掛けていらっしゃいますよね。特にアニメでは「ハイキュー!!」や「ヒロアカ」(「僕のヒーローアカデミア」),そして最近では「メダリスト」など,4Gamer読者にも人気の高そうな作品が多い印象です。制作エピソードで印象的なものがあれば,ぜひ教えてください。

林氏:
 そうですね,「ハイキュー!!」はテレビアニメが4期までと劇場版,「ヒロアカ」は8期(2025年10月放映予定)までと,長く続く作品に携わらせていただき,本当にありがたく思っています。ただ,長く続いているぶん大変なことも多くて……(笑)。

4Gamer:
 具体的には,どんなところが大変なんでしょう。

林氏:
 たとえば1期のメニュー表に「超絶パワーのボスバトルの音楽」と書かれていたら,「分かりました! よーし作るぞー!」と意気込んで作るんですけど,2期になると「1期のボスを遥かに超える敵との超神速バトル」みたいなリクエストが来るんですよ(笑)。

 それが毎回どんどん右肩上がりになっていって,「ヒロアカ」に至ってはそれが8回続いているんです……! なので,ときには作り方に変化球を取り入れたりして対応していました。もちろん,ありがたい話なんですけどね。
 よくアシスタントとも「バトルじゃなくて話し合いで解決してくれたら助かるのにね……」なんて言ってます(笑)。

4Gamer:
 ハリウッド映画でもそうですが,シリーズが続くと演出がどんどんスケールアップしていきますよね。では,作品に関わる中で,意外だった出来事はありますか。

林氏:
 それでいうと,先ほどお話しした「選曲スタイル」の現場ではけっこうありますね。作家側が「こういう状況に合うだろう」と思って作った曲でも,音響監督さんや選曲家さんによって,全然違うシーンで使われることがあるんです。
 若いころは「えっ,そこで使うんですか!?」と驚いたりもしましたが,今ではむしろ新鮮で面白いなと感じています。

 意外な場面で流れた曲が,後のシーンでまた使われると意味合いが変わることもあって,すごく勉強になりますね。たとえば,自分が作った料理を誰かが予想外の食材と合わせてみたら,「あれ? 思ったよりおいしいな!」ってなる,あの感覚に近いです(笑)。

4Gamer:
 たとえがすごく分かりやすいです。アニメの場合,曲を作るときには映像がまだ完成していないことが多いんですよね?

林氏:
 そうですね。絵コンテの段階だったり,まだ色がついていなかったり,すごいときには棒人間が動いているだけの映像だったりもします。だから,完成形を想像しながら作るんです。
 以前担当した「プリキュア」もそうだったのですが,出来上がった変身シーンを見たときは「うわっ,こんなにすごいことになったんだ!」と驚きました(笑)。

4Gamer:
 映像が完成していない段階で作るとなると,想像力がかなり試されますね……! では,各作品の音楽制作において,特に気をつけていることや意識していることはありますか。

林氏:
 作品ごとに,監督さんをはじめ制作チームの皆さんが目指している方向性を意識するようにしています。
 ただ,「Aのイメージでお願いします」とオーダーをいただいても,「いや,Bのほうが作品に合うかもしれない」と思うこともあって。そんなときは,自分が良いと思うものを信じて作ることもありますね。
 もちろん,選択肢としてAとBの2パターンを提案することもあります。

4Gamer:
 これまで数えきれないほどの楽曲を作られているので難しい質問かもしれませんが,特に印象に残っている楽曲があればぜひ教えてください。今日の気分で選んでいただいても大丈夫です!

林氏:
 そうですね……今日の気分でいうと,箱根駅伝をテーマにしたアニメ「風が強く吹いている」のメインテーマ「We Must Go」ですね。

 僕は高校と大学で男子新体操をやっていたんですが,そんな中で感じていたことが,「なぜ走るんだろう」というこの作品のテーマと重なって。自分がまだ社会人になる前に抱いていた思いとリンクする部分もあって,この曲は自分の男子新体操での経験や,劇伴作家になるまでの道のりを象徴するような一曲だと感じています。


4Gamer:
 重なるといえば,男子新体操部を舞台にした作品の劇伴もいくつか手掛けられていますよね。

林氏:
 はい。TVドラマ「タンブリング」では「BOSS」でご一緒した和田貴史さんが音楽を担当されていて,僕は劇中の伴奏曲を作らせてもらいました。
 それから,TVアニメ「バクテン!!」も男子新体操がテーマですね。あのときはもう,「もし自分にこの話が来なかったらどうしよう!?」とドキドキしてました(笑)。

 自分の経験が役立ったという意味では,社交ダンスがテーマの「ボールルームへようこそ」や,フィギュアスケートを題材にした「メダリスト」も同じです。

4Gamer:
 やはり,そういった作品の音楽制作はやりやすかったですか?

林氏:
 そうですね。ほかの作家さんだと悩まれそうなポイントでも,僕の場合は昔に散々やってきたことをあらためて音楽に落とし込んでいるだけなので,すごく自然に取り組めた感じです。

4Gamer:
 お聞きしたいのですが,林さんご自身では,自分の音楽のどこが個性や強みだと考えていらっしゃいますか。

林氏:
 分かりやすく盛り上がる曲なんかは,やっぱり男子新体操の経験が活きているのかなと思います。
 あとは,音響監督さんたちには「何言ってるの? 全然違うよ」と言われるかもしれませんが(笑),僕自身は「音楽を使う側の人たちが使いやすい曲」を意識して作っているつもりです。
 たとえば,極端な転調はあまり使わないんですよ。途中でキーを変えてしまうと,編集のときに整合性が取りづらくなってしまうので。

4Gamer:
 確かに! 劇伴って,必ずしもフルで流すわけではないですからね。

林氏:
 そうなんです。もちろん,絶対に転調しないわけではありませんが,できるだけ途中で切っても成立するようには考えています。
 あとは,サビなど大きな展開の前にはブレイク(曲が一度止まる部分)を入れることが多いですね。ためてから「ドーン!」と聴かせたい狙いもありますが,同時に編集点を作る意味もあるんです。
 シーケンスや伴奏だけを1〜2小節入れておけば,後から調整しやすいので。これは,自分が昔ひたすら編集をやっていた経験から自然と身についた感覚かもしれません。

4Gamer:
 先ほど「林さんはベートーヴェン」と言いましたが(笑),アーティストであると同時に,本物の職人でもあるんですね。

林氏:
 あの……「切れてるバター」ってあるじゃないですか。最初から1本のバターが,1つ10グラムくらいに切り分けられているやつです。あれって,すごく昔には無かったと思うんですが,こんなに長いバターの歴史の中で,誰もやっていなかったことを思いついて実現したって,本当にすごいなと思うんです。
 僕も,ああなりたいんですよ。バターに切れ目を入れた人になりたい(笑)。

林さんの作業デスク。ミルク缶があるのが微笑ましい! ちなみにビール缶(ノンアル)もありましたが,「さすがに隠します」ということでした……でも,実は写真の隅にしっかり映り込んでいます(笑)。
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日本のアニメ劇伴作家のアベンジャーズ!
「京伴祭」を立ち上げた狙いや企画への想いとは


4Gamer:
 アニメ作品の劇伴音楽にフォーカスを当てた音楽フェス,「京伴祭」について聞かせてください。2022年から毎年開催されているイベントで,今年は2025年9月に実施予定です。林さんが立ち上げた企画だそうですが,どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

林氏:
 僕の生まれ故郷である京都は,普段は観光客の方でいっぱいなんですが,コロナ禍のときはびっくりするくらい人がいなくなったんです。今でもよく覚えていますが,京都駅から実家に帰るタクシーで運転手さんが「50年近くこの商売やってますが,こんなん初めてですわ」って言っていて……。
 そこで,「この地で自分にできることはないか」と考え始めたのが最初のきっかけです。

 ちょうどその前後,Spotifyの「海外で最も再生されたアーティスト」(2020年)で,米津玄師さんや久石 譲さんといった錚々たるメンバーの中,なぜか僕が6位にランクインしていたんですよ。
 でも言われてみれば,アニメ音楽をやっている劇伴作家の曲って,リスナーの過半数が海外だったりするんです。ということは,「海外から人を呼べる力があるんじゃないか?」と気づいたんです。

4Gamer:
 確かに,日本アニメの海外人気はすごいですしね。

林氏:
 以前,「Anime Expo」や「Otakon」といった海外イベントに参加したときも,反響がすごかったんです。僕が「ヒロアカ」,作曲家の和田 薫さん(「犬夜叉」「らんま1/2」ほか)が「犬夜叉」を演奏したときなんて,数千人規模の会場チケットが5分でソールドアウトしたり,曲名を言っただけで「オーマイガー!!」って歓声が上がったりして(笑)。

 「こんなに自分たちの音楽を楽しんでくれる人が世界中にいるなら,日本でイベントを開いて,複数の作家によるいろんな作品の曲を一度に楽しめる場を作ればいいじゃないか」と思ったんです。ただ,当初は誰に話しても「できるわけがない」という反応でしたね。

4Gamer:
 過去に無かったのが不思議なくらい良いイベントだと思いますが,なぜでしょうか。

林氏:
 1つの作品だけをテーマにしたコンサートなら,その製作委員会だけに許可を取れば済むんです。でも僕がやろうとしたイベントは,1人の作家につき複数の作品の楽曲を演奏するので,すべての権利元から許可を取る必要があって……。
 合わせると,とんでもない数になるんですよね。

4Gamer:
 言われてみれば,確かに大変そうです。

林氏:
 つまり,手続きがあまりに面倒だから,これまで誰もやらなかっただけなんです。でも,一度やってみて関係値さえ作れれば,次からはもっとスムーズにできるんじゃないかと思ったんです。
 それで「とにかくやってみましょう!」と,作家仲間たちを説得しました。

 その中で,高梨康治さん(「NARUTO -ナルト- 疾風伝」「FAIRY TAIL」ほか)が「やろうよ!」と即答してくださって。本当に,高梨さんがいなければ最初の一歩は踏み出せなかったと思っています。

 それから,宮崎 誠さん(「ワンパンマン」「SPY×FAMILY」ほか)は,なんと偶然にもお互いの子どもが同じ学校の同じ学年,同じクラスで(笑)。まさか劇伴作家の子どもが同じクラスに2人もいるなんて! そのご縁がきっかけでお声がけさせていただきました。

4Gamer:
 すごいめぐり合わせですね!

林氏:
 そうやって少しずつ仲間を増やしながら,演奏する曲も毎回少しずつ入れ替えて,たくさんの作品を紹介できたらいいなと思っています。
 もともと,フジロックみたいな音楽フェスにすごく憧れていたんです。ああいうイベントって,全部の曲やアーティストを知っているお客さんばかりじゃないですよね。知らない音楽に出会えるチャンスになるし,劇伴なら新しい作品や原作に興味を持つきっかけにもなるはずです。

 そんな場を,自分が生まれ育った京都でやりたい――それが「京伴祭」を始めた大きな理由です。

4Gamer:
 そうだったんですね。実際の「京伴祭」は,どのような雰囲気のイベントなのでしょうか。

林氏:
 普段は僕たち作家が作った音楽を,映像に合わせて編集して使っていただいています。でも本来の曲そのものは,1曲1曲の中で起承転結がしっかり作られているんです。だから「京伴祭」では,楽曲に合わせて映像を使わせてもらうという,MVに近い形になります。そういうところも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

4Gamer:
 すてきですね。では,過去の開催で印象に残っていることはありますか? お客さんからの反響もぜひ教えてください。

林氏:
 第1回は,僕の実家のすぐ近くにある世界遺産「上賀茂神社」で開催しました。当時はコロナ禍の影響で無観客配信にせざるを得ず,しかも天候にも恵まれず,「誰が観るねん!」という悪条件だったんですよ(笑)。でも本番では近づいていた台風も逸れて,風が吹く草原の中で演奏できたんです。

 すると,それを観た海外の方が翌年の回で「ロシアから来ました!」「フランスから観に来ました!」と,本当にいろんな国から足を運んでくれたんです。今年で4回目になりますが,国内外ともに来場者はどんどん増えていて,お客さんどうしが初対面なのに同じ作品の話で盛り上がったりするという話も聞いて,すごくうれしく思っています。


4Gamer:
 世界中に,日本のアニメ劇伴が着実に広がっていっていますね。

林氏:
 ありがたいことに,将来的には「海外でも開催してほしい」というお話もいただいています。それこそ「京伴祭」が,日本のアニメ劇伴作家による“アベンジャーズ”みたいな存在になれたらいいなと思っています(笑)。

4Gamer:
 アベンジャーズ! 確かにそんな雰囲気があります。観客を楽しませること以外で,林さんご自身にとってイベントをやって良かったなと思うことはありますか。

林氏:
 作家って,共作でもしない限り意外と横のつながりがないんです。普段から会う機会もほとんどないので,「京伴祭」のリハーサルはめちゃくちゃ楽しいですね。
 「この楽器をこんなふうに使うんだ!」とか,「そんなディレクションをするんだ!」といった発見がたくさんあって。なんだか,自分たちで“大人の修学旅行”を作っているような感覚です。

4Gamer:
 出演者のみなさんが楽しんでいると,それが観客にも伝わりますよね。作家さん自ら演奏されるのも見どころの1つですが,林さんはピアノを担当されているんですよね。

林氏:
 はい,ピアノです。弾いていないときは,横でタンバリンを叩いたりしています(笑)。

4Gamer:
 実は,私(たまお)は,林さんとはずいぶん前に音楽教室で知り合ったんですよね。それこそ,まだ林さんがライブやイベントなどをされる前で。
 お互い同じ先生にピアノを習っていて,当時から林さんのお名前は知っていたので,「もうすでに音楽家として活躍されている方が,なぜピアノを習っているんですか?」と聞いたんです。
 すると林さんが,「いつか自分のコンサートをやるときに,自分で弾きたいから」とおっしゃっていて。

林氏:
 えっ,僕そんなエモいことを言ってたんですか!?(笑)
 でも確かにそう思っていましたし,自分で弾けたほうが絶対に楽しいだろうなと感じていたんですよね。

4Gamer:
 そして2020年1月には,ご自身のコンサート「林ゆうき 10th Anniversary Concert 〜劇伴食堂はやし屋〜」で,その願いがついに叶ったわけですね。

林氏:
 はい。あのころと比べると,本当に知らないことはだいぶ減りました。イヤモニ(イヤーモニター)のことや,スタッフさんにはどんな方がいてどんなことをしてくれているのか……そういうことも,回を重ねるごとに自然と分かるようになってきたんです。経験を積めているのは,本当にありがたいです。

4Gamer:
 それにしても,普段は演奏家ではない作家さんがステージで演奏するというのは,とても貴重な機会ですよね。

林氏:
 そうですね。もちろん,もともと演奏家として活動されていて,そこから作家になった方もいますし,慣れている方もいます。技術的には当然,本業のミュージシャンの方のほうがうまいです。
 でも,ファンの皆さんは単に“演奏技術”だけでなく,その曲の背景や制作意図まで知りたいんだと思うんです。

 たとえば,今までは声優さんが第一の目当てで作品を選ばれている方々が多かったのですが,視聴者の目線もどんどん細分化されてきていて,「この人が出るから見よう」だけではなく,「この作曲家だから」「この監督だから」「この脚本家だから」「この制作スタジオだからチェックしよう」という流れが強くなってきています。

 それって,作家にとってもチャンスだと思うんです。中に籠もっているより,前に出て自分たちで表現することもすごく大切なんじゃないかなと。……まあ,僕自身は本当はあまり得意じゃないんですけどね(笑)。


4Gamer:
 もちろん,どんな方でも大歓迎だと思いますが,あらためて「京伴祭」にはどのような方に来てほしいと考えていますか。

林氏:
 劇伴が好きなんだけど,なかなか声を大にして言えない人たちですね。たとえば「どんな音楽を聴くの?」と聞かれたときに,「話しても分かってもらえないかも……」と感じてしまうような方。でも,実は同じように劇伴が好きな人は本当にたくさんいるんです。

 音楽に詳しくなくても,アニメが好きならきっと感動してもらえるはずですし,好きな格好で気軽に来てもらえるイベントになっていると思います。

4Gamer:
 今のところ,客層はどんな感じなんでしょうか。

林氏:
 意外と女性が多いんですよね。でも,Spotifyで僕の音楽を聴いてくださっている方は,実は10代から30代の男性が半数以上なんです。
 以前は配信もしていたんですが,権利の都合で今回も実施はできません。なので,ぜひ会場まで足を運んでいただけるとうれしいです……!

林さんのSpotifyのリスナーデータ(ご本人提供)。7割以上が男性リスナーとのこと
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4Gamer:
 それではあらためて,今年の「京伴祭」の見どころ・聴きどころを教えてください!

林氏:
 先ほど名前を挙げた高梨康治さんと和田 薫さんに加えて,照井順政さん(「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」「呪術廻戦」ほか),村山☆潤さん(「ブルーロック」ほか)と僕の5人が出演します。そして僕の5人が出演します。高梨さんと僕以外は今回が初参加なので,来てくださる皆さんにもきっと新しい音楽に出会っていただけると思います。


★大注目★
「京伴祭2025」1日目の演奏予定曲(一部)はこれだ!

※2025年8月20日現在で公表されているもの

林ゆうき氏:
「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」「ヴィジランテ」「メダリスト」

高梨康治氏:
「FAIRY TAIL」「キン肉マン」

和田 薫氏:
「犬夜叉」「金田一少年の事件簿」「ゲゲゲの鬼太郎」「墓場鬼太郎」「半妖の夜叉姫」

照井順政氏:
「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」「呪術廻戦」

村山☆潤氏:
「ブルーロック」



4Gamer:
 今年は2日間に渡る公演だそうですが,2日目は錚々たる顔ぶれの声優さんたちが出演されるんですね。

林氏:
 はい。1日目は,先ほど紹介した劇伴作家による生演奏。2日目はアニメ「青のミブロ」にフィーチャーしたスペシャルイベントです。梅田修一朗さん,小林千晃さん,堀江 瞬さん,阿座上洋平さん,小野賢章さん,竹内良太さん,杉田智和さんといった豪華な声優陣にご出演いただき,ライブやオリジナル脚本の朗読劇などをお届けする予定です。

4Gamer:
 これは楽しみですね!

林氏:
 僕は「京伴祭」を,ライフワークみたいな気持ちでやっているんです。だからこそ制作会社に丸投げするんじゃなくて,本当に作家さんたちと手探りで作っているイベントなんですよね。
 だからこそ毎年,来てくれた方からのフィードバックを取り入れて少しずつ改善しています。たとえば「キャッシュレスにしてほしい」とか(笑)。ある意味では,ファンの皆さんと一緒に育てていくフェスだと思っています。


「劇伴」という言葉が持つ意味。
林氏が想う,良い劇伴や届けたいものとは


4Gamer:
 映像を彩る音楽は「サントラ(サウンドトラック)」という呼び方もありますよね。林さんは,「劇伴」という言い方をされていますが,違いはあるのでしょうか。

林氏:
 基本的にはほとんど同じものです。しかも「劇伴」って,「げきはん」と「げきばん」,2つの読み方があるんですよ。僕は「濁点が多いほうがかっこいい!」と思っているので「げきばん」と読んでいます(笑)。

 最初にお話したとおり,日本のアニメの作り方だと,映像に合わせてフィルムスコアリングするよりも,リストに合わせて作る選曲スタイルのほうが圧倒的に多いんです。世界観やコンセプトを踏襲して,1曲1曲が独立して成立する形で提供している。そこが面白いし,日本のアニメ音楽ならではの良さだと思っています。
 いわば,日本アニメの劇伴はガラパゴス的に進化したサントラの新しい形なのかなと。

4Gamer:
 よく分かりました。では,林さんにとって良い劇伴とはどんなものだと思いますか。

林氏:
 やっぱり映像としっかり合っていることが大事です。でも同時に,音楽だけを聴いても成立する。その両方を兼ね備えているものが理想ですね。

4Gamer:
 それでは最後に,林さんの音楽を聴いてくれる人に伝えたいことをお聞かせください。

林氏:
 「勉強やトレーニング中に聴いています」とか,「大掃除のときにかけてテンションを上げてます!」とおっしゃる方もいるんです。そうやって日常の中で聴いていただけるのは本当にありがたいですし,皆さんの生活を彩る“劇伴”として受け入れてもらえることがうれしいですね。
 これからも,音楽やイベントを通して劇伴の魅力がもっと広がっていけばと思っています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました!

画像ギャラリー No.011のサムネイル画像 / [インタビュー]「ハイキュー!!」「ヒロアカ」劇伴作家,林ゆうき氏が語る! 名シーンを彩る音楽と「京伴祭」への想い

――2025年8月18日収録

「京伴祭 2025」公式サイト

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集計:08月29日〜08月30日