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神谷英樹氏と野田クリスタルさんが,それぞれのゲーム作りについて語る。「スーパー野田ゲーMAKER」やBitSummitは業界の未来を背負う存在に[BitSummit]
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このイベントでは,クローバーズ スタジオヘッド/チーフ・ゲームデザイナーの神谷英樹氏と,お笑い芸人・ゲームクリエイターの野田クリスタルさんが,それぞれの取り組みやゲーム業界の未来などについてトークを繰り広げた。
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トークの最初のテーマは,「ゲーム作りにおいて一番こだわる部分」だ。神谷氏は子どもの頃からゲームデザイナーを志しており,また実際にゲームデザイナーとして活動しているプライドから,「ゲームをしっかりデザインしたいという気持ちがある」と回答。端末のスペックが上がってビジュアルが綺麗になったり,ストーリーが面白くなったりとゲームは進化したが,そのタイトルにしかないメカニクスの部分にこだわりたいと語り,例として「大神」の筆調べや「ベヨネッタ」のウィッチタイムを挙げた。
野田さんは「バグがないことが一番の目標」としつつ,自身のチームが小規模であることから,リリースから1か月程度はプレイヤーにバグを報告してもらっていることを明かした。また自身が芸人であることや,作ったゲームをゲーム実況者が配信していることから,「滑らないゲームを作りたい」とも話していた。
なおバグに関しては,神谷氏もSNSなどに報告が投稿されると冷や汗が出るそうだ。
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2つ目のテーマは,「手軽にゲームの開発・配信ができるようになったからこそ,インディーゲームクリエイターに求めること」である。
神谷氏は,会社に所属していると予算やスケジュール,売上目標などに基づいてゲームを作らなければならないので,自分のクリエイティブを100%出せるわけではないと説明する。インディーゲームクリエイターは,クリエイティブをむき出していると感じるので,それに正直にぶつかっていってほしいと語った。
また,野田さんを含むインディーゲームクリエイターには嫉妬心やライバル心があり,自身のモチベーションにもなっているとも話していた。
野田さんは,インディーゲームには大ヒットしたら大儲けできるといったような夢があると思われがちだが,そのイメージを抱いて参入すると痛い目に遭うと指摘する。さらに,インディーゲームは数百本売れただけでもすごいと言われる世界で,だからこそ少人数に向けた深いものが作られ,それが結果的に広まってヒットにつながるという構造であると説明した。
「Minecraft」がたくさんダウンロードされたから自分も作ってみようという気持ちではなく,とにかく作りたいゲームがあるから作ったという独自性のあるゲームを作ってほしいと語った。
また,そもそも吉本興業の規模はインディーズなのかという疑問に,神谷氏はプラチナゲームズに所属していた時代に「ソルクレスタ」を作ったときは,インディーズのつもりでBitSummitに参加したと回答。野田さんも,狭く深いゲームならインディーゲームと言っていいのではないかと持論を示した。
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3つ目のテーマは「パブリッシャに大切にしてもらいたいこと」で,神谷氏が「お金と時間をたくさんください」と即答すると,野田さんも「それ,正しいですよね」と同意。神谷氏は,あらためてパブリッシャは企業なので営利活動をベースにしていることを説明し,そのうえでクリエイティブを大事にしてほしいと語る。そしてクリエイティブを大事にするパブリッシャと仕事をすると,自分達もプレイヤーもハッピーになれると続けた。
野田さんは,パブリッシャやスポンサーが「売上を出すためにセールスポイントがないといけない」と口を出してくることに対し,「インディーゲームのセールスポイントは,メジャーにないものを作れること」と指摘する。
変にセールスポイントを作ることで,逆に独自性がなくなるケースもたくさん見てきたので本当にやめてほしいと語る。またその一方で,インディーゲームクリエイターとパブリッシャやスポンサーが妥協しつつ,お互いを理解し合うことも必要だと話していた。
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4つ目のテーマは,「神谷氏と野田さんがお互いに聞きたいこと」だ。野田さんが「ゲームの開発がある程度進んだ段階で,思っていたのと違うとなった場合にどうするか」と尋ねると,神谷氏は「めちゃめちゃ言いづらい」としつつ,担当スタッフの近くに立って「ちょっと,ごめんなんやけどさ……」とやるしかないと回答した。
野田さんは「こんなに面白くなると思わなくて。これだったら,こんな感じでもっと行ける?」とスタッフを褒めて路線を修正させる方法を提案した。
また野田さんは,お笑いなら面白いことを思いついたらすぐに入れられるし,入れてみてダメだったらすぐに外せるが,ゲームではそれをやるとお金と時間がかかると話す。したがってゲーム作りは,あらかじめ完成形を見据えて一気に作るほうがいいのだが,自身はそれが苦手なので,お金も時間もかさんでしまうと語った。
神谷氏は,自身が「これは違う」と感じた場合,たとえ作業がある程度進んでいたり,「この人は相当苦労したんだろう」と思える場面であっても,指摘をためらってはいけないと語る。その先にいるプレイヤーのことを第一に考えるべきだという持論を展開すると,野田さんも「スタッフにどう思われても,面白いものができるならそれでいい」と同意を示した。
その一方で神谷氏は,スタッフ個人の作家性も大事にしたいので,こだわっている部分にはリスペクトを払うとし,話し合いの中で落としどころを探っていけば,そんなに間違ったことにはならないとも話していた。
また野田さんは吉本興業にエンジニアがいないため,自身のゲームは外部に開発を委託することになると説明。そのため企画や仕様をしっかり固めて,どんな仕上がりになるかある程度想定してから発注する必要があるとした。
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神谷氏から野田さんへの質問は,「ゲーム作りを志した理由」である。野田さんは,自分の作りたいゲームや,「もっとこうしたらいいのに」と思うゲームがあったことがきっかけだったと明かす。しかし自分でプログラミングを学び,ゲームを作り始めたところ,なぜ皆がゲームの仕組み作りに苦戦しているのかが分かり,面白くなっていったそうだ。
また野田さんが自身の作ったゲームを芸人仲間にプレイしてもらって,直接反応を見たときは感動したという。「漫才よりウケるな」と思った瞬間もあり,ゲーム作りに活路を見出したと話していた。
野田さんの回答を受けて,神谷氏は「ゲームが好き」と「ゲームを作ろう」はまったく違う世界だと指摘し,その境界線を越えてプログラミングを学んだことに大きなリスペクトがあると話す。
話題は野田さんの最新作「スーパー野田ゲーMAKER」の開発で苦労した点にもおよんだ。野田さんは,プレイヤーが質問に答えていくだけでAIが勝手にゲームを作り,それが面白くてもつまらなくても盛り上がれるというコンセプトで作ったことを紹介し,想定以上にAIが作ったゲームがつまらなかったことを明かした。また,まだまだ自由度が足りないので,今後のアップデートでより良いものにしていくとも語っていた。
神谷氏は「スーパー野田ゲーMAKER」について,「ああいったゲーム作りを通じてクリエイティビティが刺激され,ゲーム業界を目指すことはよくある」と指摘し,ゲームクリエイターの桜井政博氏がファミリーベーシックでプログラミングを学んだエピソードを披露した。
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また野田さんは,ゲームクリエイターが増えればいろんなゲームが出てくると語り,だからこそBitSummitはゲームの未来を背負った重要なイベントであり,「ここが終わると,ゲーム業界が終わる」と表現する。
神谷氏も,これから名を馳せるゲームが出てくるのではないかと毎年BitSummitの開催を楽しみにしているとし,こうしてステージに登壇することで,出展者と同じ土俵に立っていることを感じながらゲームを作っていきたいと展望を語っていた。
イベントの最後には,神谷氏が「前回は無職として登壇し,『いつかゲーム作りのステージに帰ってきます』と言ったが,約束を守れて良かった」とコメント。これもファンの応援があったからこそで,それを裏切らないように頑張ってゲームを作っていくと続けた。
また,野田さんは,出展者や来場者と切磋琢磨してゲームを作っていきたいと展望を述べ,インディーゲームの魅力を「量産されたものではなく,手作りの工芸品のような味がある」と表現し,これからも皆と一緒にインディーゲームの沼にハマっていきたいとまとめていた。
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「BitSummit the 13th」公式サイト
4Gamer「BitSummit the 13th」まとめページ
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