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「京都シリアスゲームサミット」初日レポート。元ホワイトハウス上級顧問をはじめ,国内外の第一線で活躍する人物が登壇
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印刷2025/08/13 07:00

イベント

「京都シリアスゲームサミット」初日レポート。元ホワイトハウス上級顧問をはじめ,国内外の第一線で活躍する人物が登壇

 IGDA日本 SIG Growthは,立命館大学ゲーム研究センター,ホテル アンテルーム 京都と共同で,イベント「京都シリアスゲームサミット」を2025年7月29日から31日にかけて開催した。
 初日となる7月29日,立命館大学のカンファレンスルームで「社会問題解決とゲーム」をテーマにしたセッションが行われた。

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 シリアスゲームとは,教育,訓練,社会問題の解決など,娯楽以外の目的を持つゲームを表す。登壇者は皆,シリアスゲームにおいて,国内・海外の第一線で活躍している人物だ。
 なお,当日の音声トラブルにより,当初予定していたディスカッション形式から,各々が活動内容を紹介する形式に変更されている。


国連・国際機関と日本のゲーム産業の今後


 セッションは,IGDA(国際ゲーム開発者協会)のSIG Incubationで議長を務め,IGDA日本 SIG Growthの正世話人として,京都シリアスゲームサミットを主催する佐藤 翔氏による活動紹介から始まった。

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 同氏は,IGDAが世界規模でゲーム開発者の情報共有とコミュニティ育成を行う国際NPOであることを説明した。日本支部にあたるIGDA日本は2002年に発足し,2012年にNPO法人認定を受けて活動している。

 続くキーノートでは,佐藤氏が「国連・国際機関と日本のゲーム産業の今後」と題して講演を行った。同氏は,国連や国際機関がゲーム業界に急接近している理由として,ゲーム人口が世界で数十億人規模に達したことと,新興国でのゲーム産業振興への関心の高まりを挙げる。

 「UNDP(国連開発計画)は中国の動画プラットフォーム虎牙と協力して『Mission1.5』というゲームを展開しています。UNESCO(国連教育科学文化機関)は『Minecraft Education』と連携したり,アフリカの開発者と『African Heroes』を作ったりしています」と具体例も示された。

 また,欧米や韓国のゲーム業界団体はGlobal Video Game Coalitionを結成し,国際的なロビー活動を展開しているが,日本の業界団体にそうした動きが見られないことに,佐藤氏は懸念を示した。

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ゲームは世界に何ができ,世界はゲームで何ができるか


 続いて,海外から4名がオンライン登壇した。それぞれがシリアスゲームの文脈において世界の第一線で活躍している人物であり,話題の中心も環境問題や難民問題など,グローバルなレベルのものとなった。
 
 まず口火を切ったのは,Games and LearningのMark DeLoura氏だ。同氏は2013年にオバマ政権下でホワイトハウス科学技術政策局の上級顧問に就任し,政府機関でのゲーム活用推進に尽力した。

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 在任中はホワイトハウスで初となる教育ゲームのゲームジャムを開催し,約100名の開発者が参加。
 また,教育省と協力して「ED Games Expo」を立ち上げ,政府が資金提供した教育ゲームをケネディ・センターで展示する取り組みも行った。

 現在は独立コンサルタントとして教育ゲームの開発を支援しているが,政権交代後の助成金削減により開発環境が厳しくなっていると語った。

 次に登壇したUNEP(国連環境計画)のLisa Pak氏は,イニシアチブ「Playing for the Planet」のオペレーション責任者として活動を紹介。2019年の国連気候サミットで発足した同イニシアチブには,バンダイナムコやソニーを含む58社が参加している。

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 活動の柱は,脱炭素化による2050年までのネット・ゼロ達成,ゲーム内での環境啓発活動「Green Game Jam」の実施,イノベーションプロジェクトの推進の3つ。
 とくに注目すべきは,2022年の調査で81%のゲーマーが「ゲームの世界観に合えば環境コンテンツをもっと入れてほしい」と回答したことだ。79%のゲーマーはゲームが環境について学ぶのに役立つと信じ,61%のゲーマーは環境コンテンツにお金を払う意欲さえあったという。

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 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のPetar Dimitrov氏は,世界で1億2300万人を超える難民の支援におけるゲームの可能性を語った。
 難民はインターネットへのアクセス率が一般人口の約半分だが,難民キャンプのコンピューターセンターでは,ソーシャルメディアやストリーミングと並んで,ゲームの人気が高い。

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 また,ゲームは地元コミュニティとの統合にも役立つ。北マケドニアで,ウクライナ難民と地元の子どもたちのゲーミングクラブを実施した際は,すべての子どもたちがポジティブな影響を報告したという。

 UNHCRは,難民キャンプでのゲーミングハブの構築,デジタルインフラへのアクセスの確保,活気あるグローバルコミュニティの育成に取り組んでいる。そして,難民たちが専門家としての道を進めるように,デジタルスキルのトレーニングと認定も行っている。

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 最後に登壇したWFP(世界食糧計画)のDarko Petrovic氏は,世界の飢餓問題の現状と,それをゲームを通じて解決するアプローチを説明した。
 世界で8億人が慢性的な飢餓状態にあり,急性飢餓人口は2019年の1億3500万人から3億4300万人に増加したという。

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 WFPは2005年から「Food Force」などのゲームを活用し,現在は「資金調達」「ストーリーテリング」「教育」「内部スタッフのトレーニング」「支援が必要な若者のスキルアップ」の5つを目的としている。

 昨年はGames for Change Student Challengeのパートナーとなり,「Outplay Hunger」をテーマに採用。10〜25歳の若者が食品廃棄と栄養失調に関するゲームをデザインした。
 「ゲーム制作で学ぶスキルは,ほかの産業でも応用でき,雇用創出の可能性はとても大きいです」とPetrovic氏は述べた。

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国内におけるゲームと社会問題解決事例


 国内事例のセッションでは,4名の専門家が登壇し,ゲームを通じた社会課題解決の事例と,背景にある思想や開発プロセスについて語った。

 立命館大学の井上明人氏は,長年にわたってゲームを研究し,ゲーム保存政策にも携わってきた人物だ。シリアスゲーム制作者でもあり,代表作の節電ゲーム「#denkimeter」外部リンク)を開発した際は,自身が節電モニターとなり,1か月の電気代が753円という記録も達成した。
 また,実世界の記録をゲームのインタフェースで体験する試みとして,デモ行進の主観視点動画と一緒に歩くプロジェクトなども紹介した。

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 日本大学の古市昌一氏は,日々の業務がゲーミングである防衛産業でシリアスゲームを開発してきた経験を持つ。同氏は,エンターテイメントゲームとはまったく異なる,シリアスゲームの開発プロセスを紹介した。
 プロジェクトの出発点は企画書ではなく「要求定義書」であり,ユーザーの真のニーズや現実世界の課題を明確にすることが重要となるそうだ。

 また古市氏は,アクセシビリティ,災害避難,サイバーセキュリティなどをテーマにゲームを制作する「シリアスゲームジャム」外部リンク)を2014年から継続して開催してきた。
 大学の授業だけでは年間100名ほどしか教育できないが,ゲームジャムを通じて幅広い層に開発手法を伝えてきたという。

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 フリーランスのシリアスゲームコーディネーターである武内伸雄氏は,「活動として捉えるシリアスゲーム」という視点を提示し,社会問題解決には個人の意識変容だけでなく,関係性の構築が重要だと指摘した。
 事例として挙げた「コミュニティコーピング」外部リンク)では,約320名の認定ファシリテーターが地域での実践を通じて人間関係を構築し,尼崎市や養父市などでは行政主導の取り組みも行われているという。

 さらに,社会保障制度の認知向上を目的とした「社会保障ゲーム」外部リンク)も取り上げられた。これは,社会保障制度を知らない人が,それゆえに支援を受けられない問題を解決する狙いがある。
 33か所で約560名がテストプレイに参加し,ゲーム制作のプロセス自体が,この社会問題への認知を広め,仲間を集めることにつながっている。

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 セガ エックスディーの谷 英高氏は,同社の「世界を良くする衝動を作ろう」というミッションのもと,企業や自治体と連携して社会課題を解決している。同社の強みは,ゲーミフィケーションの概念をビジネスのフレームワークに落とし込んでいることだ。

 具体例として,防災訓練を謎解きゲームにした「THE SHELTER」シリーズ,障害者雇用に向けた社内研修用ボードゲーム「ズバリ 気配り アニマッチ」,川崎市と富士通との協働による環境行動変容アプリ「Green Carb0n Farm」,みずほ銀行と連携した金融教育プラットフォーム「ポシェットプラス」などが紹介された。

 谷氏は最後に,ゲームやエンターテイメントを絡めて,今後も事業者側の視点で社会課題を解決していくと意欲を示し,セッションをまとめた。

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会場にはボードゲームの展示も


 セッション終了後は,登壇者との個別交流の時間が設けられた。
 また,会場には共生社会について学べる「ワンダーワールドツアー」外部リンク)など,社会問題解決をテーマにしたボードゲームが展示され,来場者は実際に試遊しながら開発者と意見交換を行った。

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 筆者が印象に残ったのは,参加者の多くが学術系で,ゲーム開発企業やプレイヤーコミュニティからの参加が少なかったことだ。
 社会課題解決を目的とするゲームと,エンターテイメントとしてのゲームの間にはまだ隔たりがあり,両者の交流が進めば,より多様な視点からシリアスゲームの可能性を探ることができるのではないかと感じた。

「京都シリアスゲームサミット」公式サイト

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