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アニメーションセンスがないと凹むアナタへの処方箋。つまずいたときに立ち返りたい,動作とポージングの基礎的な考え方[CEDEC 2025]
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印刷2025/08/06 12:05

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アニメーションセンスがないと凹むアナタへの処方箋。つまずいたときに立ち返りたい,動作とポージングの基礎的な考え方[CEDEC 2025]

 ゲーム開発者カンファレンス「CEDEC 2025」にて,「動きが小さい、キレがない、ポーズが決まらない、オリジナリティがない……インゲームアニメーターのお悩み処方箋」と題したセッションが行われた。本セッションでは,動作に無理がないモーションの考え方,キャラクターの個性を表現するポージング,バリエーションを発想する手法など,モーション制作でつまずいたときに立ち返りたい基礎知識が紹介された。

講演者は石黒正隆氏。ナムコ(現:バンダイナムコスタジオ)にて,モーション企画として初期の「鉄拳」「ソウルキャリバー」シリーズのゲームデザイン,モーションデザイン&ディレクションを兼任。Aiming台湾スタジオ在籍時には,モーションチームの人員育成,監修に従事した
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 「ポーズが地味と言われた」「よろけモーションがぎこちない」といったお悩みのケースごとの対処法にも触れられていたが,本稿では基礎知識のパートを中心にレポートしている。ケースごとの対処法は,セッションの講演資料に図解と詳細な解説テキストが掲載されているので,詳細はCEDiL(外部リンク)にアップロードされる講演資料を参照されたい。


動作のつながりとバランス


 最初に解説されたのは,動きを理解し再現する際に役立つ,動作の3局面,局面融合,局面のバランス,運動連鎖の概念についてだ。

・動作の3局面

 あらゆる動作は準備局面,主要局面,終末局面の3つの“局面”から成り立っている。投球動作を例にざっくり分類すると,振りかぶって力を溜める動きが準備局面,ボールをリリースして溜めた力を開放するのが主要局面,投げ終わったあとの腕の振り抜きが終末局面になるイメージだ。

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・局面融合,局面バランス

 相互につながる3局面がスムーズに移行することを局面融合と呼ぶ。局面融合は自然な運動の流れに不可欠であり,これが適切に行われていない動作は見る者に違和感を与える。例えば,準備局面(予備動作)なしに大きな動作をしたり,連続動作中に突然運動方向が変わると,物理的な説得力が失われてしまう(特殊能力を演出する意図的なものは除く)。
 また,動作にはそれに見合った各局面の大きさがあり,それらのバランスも重要である。

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・運動連鎖

 人体の動作において重要なのが運動連鎖の原理だ。力は単一の部位で生まれるのではなく,複数の筋肉や関節が連鎖的に動いて生み出される。投球動作では,足関節から始まり,膝関節,股関節へと順番に全身の関節が動いていき,最終的にボールへと力を伝える。

 地面に接地した状態で行う格闘系のアクションも,同様の運動連鎖によって力を伝達する。そのため,格闘モーションを作る際も単なるポーズの連続ではなく,“力が移動していく動作の流れを作る”よう意識することが大切だという。流れを意識してモーションを組むことで,スムーズでありながら重さを感じ,緩急のあるアクションに仕上がる。

 攻撃モーションで極端な溜めを表現する場合も,局面融合と運動連鎖を意図的に遅らせているものと解釈ができ,これが緩急やキレの表現につながる。

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伸張ポーズと収縮ポーズの印象に基づくポージング


 共感されやすいポージングの考え方として,ベースとなる伸張ポーズと収縮ポーズについて解説された。伸張ポーズは,身体を中心から外側に広げる姿勢を指し,一般的には男性的,明るい,積極的,大胆といった印象を与える。一方の収縮ポーズは身体の中心に向かって縮める姿勢のことで,女性的,消極的,弱気な印象につながりやすい。

 伸張,収縮それぞれが与える印象をベースにポーズを考えれば,キャラクターの持つイメージをより表現しやすくなる。また,対峙姿勢,重心,身構えといったポージングの要素を組み合わせれば,同じ基本ポーズであっても異なる印象に仕上がる。下半身は伸張ポーズで力強さを表現し,上半身は収縮ポーズにすれば,技巧的な印象を演出することも可能だ。

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キャラクターの性格設定に応じたポーズの例
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 キャラクターモデルは運動の3法則や人体構造を無視して動かせるため,考えなしにポージングしていては説得力は生まれない。「よりクオリティを高めるなら,人体各部位の連動,力がどこからどこへと向かって伝わるか,人体のどの筋肉が緊張し,弛緩しているかを意識するといい」と石黒氏は述べていた。

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動作のバリエーションを発想する要素分解強制結合法


 制作現場に豊富な参考資料がある一方で,リファレンスがないと途端に困ってしまう,既存作品の模倣に頼りがちでネタが被る,アクションの構成はアクターさん頼り,採用されないのに考えるのは時間の無駄と,アイデアを発想する段階でもさまざまな悩みが生まれるものだ。
 石黒氏は,そんなときに「だまされたと思ってやってみてほしい」として,6つの手法を提案した。(1)〜(5)はスライドを見てもらうとして,ここでは要素分解強制結合法についてみてみたい。

心の持ち方を変えるのも有効な方法の1つ
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・要素分解強制結合法

 これは制作するモーションを要素ごとに分解し,強制的に結びつけて新たな発想を生み出す手法のこと。これまで説明してきた運動連鎖や局面融合といった理論をいったん脇に置き,ランダムに自由な組み合わせを試すのがポイントだという。

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 まず,攻撃の種類,全身運動,体勢,加撃部位といった動きの要素を書き出し,要素ごとに選択肢を列挙していく。例えば全身運動なら,前進,後退,横移動。体勢なら,立ち,中腰,のけ反りといった具合だ。あとは選択肢を組み合わせていくだけでいい。1要素に対して選択肢は1つだけ,といった縛りはないため,運動の方向や体勢の変化をつけるために,同時に複数組み合わせてもよいそうだ。

 機械的に組み合わせを試行し,先入観や思い込みで発想の幅を狭めずにアイデア出しをする手法のため,気楽な気持ちで試すのが吉だ。

アイデアがまとまったら,動作が分かりやすいか,共感できるものであるか,コスト的に実現可能か,といった視点でチェックしてみる。自分の作ったものを“見る人がいる”という意識が大切
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アニメーションデザインコンセプト


 コンセプトが曖昧だとデザインの統一感が失われ,リテイクの増加や制作者の士気低下を招いてしまう。そんなときに活用したいのが,アニメーションデザインコンセプトだ。これは,プロジェクトのゲームコンセプトをユーザー体験として実現するために,どのようなアニメーションデザイン(モーションデザイン)にするかを明確に定義したものである。

モーションに影響を与える要素がレイヤーごとに可視化されるので,制作者の目指すべきイメージが読み取りやすくなる
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 アニメーションデザインコンセプトは,3層のレイヤーで構成されている。最下層には「リアル」という土台があり,物理法則や人体構造といった現実世界の制約がこれにあたる。その上に「らしさの演技」のレイヤーが存在し,キャラクターの個性や性格を表現する要素が加わる。そして最上層に「外連味」,すなわち誇張表現のレイヤーが配置される。

ここにフレーム数や移動距離などのゲーム上の制約が加わる。コンセプトに沿った素晴らしいモーションであったとしても,制約を守れていないものは実装に至らない。いかに要件を満たし,完成度を高めるかはクリエイターの腕の見せどころだ
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 また,フィードバックの際にもアニメーションデザインコンセプトが生かされる。「もっとカッコよく」といった曖昧なフィードバックは,無用なリテイクを増やす原因の1つ。「キャラクターの演技はよくできているけど,重心がおかしい」「誇張を3割くらいおさえてほしい」というふうに,コンセプト上のどの要素であるかを明確にしつつ指示を出すとスムーズだろう。

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 石黒氏はセッションのまとめとして,「モーション制作は土台となるポーズが重要であり,ポーズが悪ければいい動きは作れない。刹那的なポーズを重ねていくのではなく,ポーズを生かすために流れを作る意識が大切」だとコメント。

 また,論語の「これを知る者はこれを好む者に如かず」になぞらえ,モーション制作を楽しんで魅力的な作品を作ってほしいとエールを送った。

「CEDEC 2025」公式サイト

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