
インタビュー
[インタビュー]崩壊ギリギリのバランスで世界が動くSLG「歴史の終わり」の制作者である畳部屋氏に,ゲーム内容や個人制作の苦労を聞いた
ゲームを作りたいという思いと,ゲームの制作環境がそろう時代とが合致した
4Gamer:
それにしても,聞けば聞くほど1人で作っているとは信じられない内容ですよね。
畳部屋氏:
キャラクターのイラストと背景イラストだけフリーランスの方にお願いしていますが,ロジックを組むのは自分でやっています。
4Gamer:
制作期間はどれくらいになっているんですか?
畳部屋氏:
2年半くらいですね。
4Gamer:
ゲーム関係であれば,誰もが知っているいい会社にいたわけじゃないですか。それをあえて,個人になってインディーゲームを制作しているわけですが,そのモチベーションはどこから来ているのでしょう。
畳部屋氏:
分からないですね(笑)。もともとなんでも興味がある人間だったので,何か,内に溜まっているものがあったのですかね。
会社で作るのも楽しかったですし,「サイバーパンク」のように,注目されるゲームに関われるのは有り難くて,やりがいもありました。ただ,やはり5年もかけて1つのプロジェクトで,会社のプロジェクトの一部として働くというのは,自分の興味あることとか,出したいなと思っていることのほんの一部しかできないということもあります。それを埋め合わせるという感じでしょうか。
興味という意味では,サイバーパンクでCGの仕事をしていたみたいに,絵を描くとか,ものを作るとかも好きでしたし,世界中を旅行するというのも好きなんです。去年の夏はインドの北の端のヒマラヤ山脈の5000メートルくらいのところに行ってきました。
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4Gamer:
それは楽しそうです(笑)。
畳部屋氏:
インドなんですけど,チベット仏教の土地で,本当に電気もほとんどないような村の近くの丘にある,ラサのポタラ宮の小さい版みたいな僧院を見るのが楽しいと思って,そこへ行ってみたりしたんです。
4Gamer:
それにしたって,何でも興味があるという人はいっぱいいますけれど,そのインプットされたものが,アウトプットになる人はあまりいないですよね。そこが,ほかの人とは違うのでしょうか。
畳部屋氏:
それは自分も悩んでいたところで,本当は20代くらいのころに,いっぱいアウトプットしたかったのですが,何も形もならなかったんです。
4Gamer:
いや,20代でアウトプットしたいと思うことが,そもそもすごいです(笑)。でも,きっとアウトプットしたいと思ったときに,その手段が,その時代になかったというのもあったのではないでしょうか。
畳部屋氏:
まさに,それです。だからUnreal Engineが出てきたのは,自分の人生にとって幸せだなと思っています。最初にプログラムができないと話しましたが,すごく簡単なスクリプトくらいは,仕事で書いてはいたんです。ただ,ゲームを丸ごと作るようなプログラムは書けなくて。
だから,ちょうど10年くらい前にUnreal Engineが普及しはじめたとき,それを触っていたら,自分のなかのアウトプットしたかったけど,しきれなかったものが,これでできるんじゃないかなと思い始めたんです。
だから,もし自分の年齢が10歳年上だったら,アウトプットしないまま終わっていたかもしれません。
4Gamer:
いまおいくつなんですか?
畳部屋氏:
43歳です。
4Gamer:
なるほど,もし10歳違って,40代のときにUnreal Engineに出会っていたとして,モチベーションがあったかというと……,という話ですね。
一方で,プログラミングができない人間からすると,できなくてもゲームが作れると言われても,「そんなことできるわけない」という思い込みもあって,懐疑的になりますよね。
畳部屋氏:
いやあ,それはブループリントが素晴らしすぎるんですよ(笑)。
4Gamer:
そんなにですか(笑)。確かに,以前は個人でゲームを作ろうと思うと,プログラミングもそうですが,映像(CG)であったり,BGMであったりを組み合わせるのはすごく難しかったと思うんです。
それが,Unreal Enginenなどの使いやすい環境が登場して,アウトソーシングではないですが,オンライン上で参加者を募りやすくなったり,フリーの素材であったり,間違いなく個人でゲームが作りやすくなったと感じます。
畳部屋氏:
本当にそう思います。
4Gamer:
ただ,それにしたって2年半もモチベーションを維持するのは,大変だと思います。
畳部屋氏:
モチベーションはありますね。シミュレーションゲームを作るのは,本当に天職だと思っていますから(笑)。
おそらく子供のときから,何を見るにしても,シミュレーションゲームのように,どんな要素が組み合わさっているのかを考えていたと思うんです。だから,こんなにも自然にシミュレーションゲームのロジックを,どう組んだらいいのかというのを楽しくできているのだろうと。作ってみて,それに初めて気づいたみたいなところはありますね。
1人ではどうしても手が回らない,人海戦術の部分をどう解決する?
4Gamer:
ところで,畳部屋さんは,今の日本のインディーゲーム界隈を,どのように見ているのでしょうか。
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私も日本のインディーゲームの現状を知らないので,どうなんでしょうね。BitSummitも初めてなので。
4Gamer:
例えば,個人的な印象として,最近はインディーと商業との差が境目がなくなってきて,いろいろな側面が出てきたように感じています。畳部屋さんは,大企業から資金を受けているわけでもなくて,ある意味でピュアなインディーゲーム開発者だと思うのですが。
畳部屋氏:
実際に,BitSummitにも,大きな(企業)ブースがたくさんありますね。
4Gamer:
もちろん,いい面もあるのですが,悪い面も同じぐらいあると思っていて,そんななかで,本物のインディーゲームだと思うんですよ。そのなかにいて,何か思うところはあるのかなと。
例えば,韓国だと政府や州政府,街からの補助金が出ていて,どんどん背中を押している状況があります。日本でもいくつかはあるものの,そこまでではないように思えます。
畳部屋氏:
その点でいえば,実は私のゲームが文化庁のクリエイター支援育成プログラムに採択されて,何百万かもらえました。そのおかげで,キャラクターと背景のイラストレーターに発注できたということはあります。
4Gamer:
ああ,なるほど! 見えづらいですが,その制度はちゃんと機能していたんですね。先ほど聞いたときに,自前なのかと思っていました(笑)。
畳部屋氏:
いやいや(笑)。キャラクターを150人とか発注しないといけないので,自前では厳しくて。ただ,それで見た目が良くなってから,いろいろな取材がありましたし,パブリッシャ(WorldMap)からもお声がけいただけました。見た目は大事なんだな,と。
4Gamer:
たしかにファーストインプレッションが重要ですよね。PVを見たときに,こんな高いクオリティのインディーゲームを個人で出すのかと驚きました。
アクションゲームとかRPGは,理解しやすくて,派手にしやすいと思うので,インディーでも目立たせやすいと思うのですが,このシステムで,あの存在感を出すのはすごいなと。
畳部屋氏:
ありがとうございます。ただ,日本のインディーゲーム開発は,シミュレーションゲームが少ないのが残念だと思っていまして。PC-98の時代とかは,たぶん1人とか2人で作っていたと思うんですが,シミュレーションゲームがたくさんあったんですよね。
4Gamer:
いつのころか,なくなっていきましたね。
畳部屋氏:
一方で,最近は中国のインディー開発者が,シミュレーションゲームをすごく作っているんですよね。
4Gamer:
そうなんですよ。いま,かなりの数が出ています。
畳部屋氏:
これは,何なんだろうと思ったのですが,コーエーテクモゲームスさんのゲームがすごく人気が高いらしくて,そのゲームで育ってきた人が,もしかしたら,インディー開発者として芽吹いているのかもしれませんね。
それもあってか,「歴史の終わり」はパブリッシャが決まっているのですが,中国のパブリッシャからお声がけが多くて。
4Gamer:
今決まっているパブリッシャで,グローバル展開するのでしょうか。
畳部屋氏:
WorldMapから,グローバルに展開する前提で動いています。ただ,共同パブリッシングのお誘いなどもあり,パートナーシップの可能性は常に模索しています。
4Gamer:
ちなみに,個人制作の難しさみたいなところってありましたか。ないことはないと思うのですが。やはり個人制作をしたいけれど,なかなか足を踏み出せないような人は多いと思うんです。
畳部屋氏:
そうですね……個人制作には,いろいろな側面があって,やっぱり1作目や2作目は,本業があったので休みのときに作っていましたが,時間を取るのが難しいですね。でも,逆に定期収入があるので,仮にこのゲームが売れなくても生活はできるみたいなのを確保できた状態で作れたのは良かったですよね。
一方,いまはフリーランスになって,フリーランスとしての仕事もしているのですが,ある程度は不安定な状況ですから,自分のゲームを作るというのが不安になるのは確かです。
あと,どうしてもテストプレイが偏ってしまうのも問題で,フラットにテストプレイをしているつもりが,自分のクセが出てしまっていることが多くあります。それが前作までの反省点でもあったんです。発売してみたら,思っていたことと違うように遊ばれて,想定していなかったバグが出るとかいうこともあったので。
4Gamer:
あー,デバッグは本当に人海戦術ですから。
畳部屋氏:
はい。ですから今作は,パブリッシャが付く前から,副業でQAをやってくれる人を見つけて,プレイしてもらっていました。パブリッシャにもQAのサポートがあるので,そういった第三者の目でゲームをプレイしてもらい,基本的なことを見落としていないかだとか,そういうところをじっくりと,ちゃんとやっていったうえで,発売しようと思っています。
4Gamer:
デバッグ会社に頼むにも,なかなかコスト面も難しいでしょうし。
畳部屋氏:
そうなんです。ただ,最近は「Game Pitch Base」のゲーム業界のお仕事募集掲示板みたいなものがあって,そこで人を見つけることもできますね。ゲーム業界,主にインディーの人でお仕事を探しています。お仕事が欲しいですといった人が投稿できる場所があるんです。
そういう人たちは,本業もあるけれど,時間があるので副業でインディーゲーム開発もしてみたいという人が投稿していて,そういうところで,QAさんを見つけられたりもします。
なので,例えばプログラマが欲しい,イラストレータが欲しいという人もチームを見つけやすい環境になったのかなと思っています。
4Gamer:
先ほどの話にもつながりますが,個人である程度の規模を作りやすい時代になったということなんですね。ゲーム好きとしては嬉しい時代になったように思います。本日はありがとうございました。
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