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“魅せる”ゲーム演出を支えるセガのアニメーター陣。クールなシャドウを描くためのアニメーション演出の技法に迫る[CEDEC 2025]
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このセッションでは,セガのアニメーターの郷田周吾氏,渋谷浩一氏により,「ソニック × シャドウ ジェネレーションズ」のキャラクターアニメーションやイベント演出の制作プロセスが紹介された。
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キャラクターの個性を引き出すアニメーション技法
1991年に生まれ,現在までに累計17億7000万本以上を売り上げている「「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズ。
その最新作となる「ソニック × シャドウ ジェネレーションズ」は,過去に発売された3Dアクションアドベンチャー「ソニック ジェネレーションズ」と,ダークヒーローのシャドウが主役となる完全新作「シャドウ ジェネレーションズ」を1本に収録したタイトルだ。
Switch2版は今年6月に発売され,全ハードで世界累計200万本を突破している。
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郷田氏らアニメーションパート担当の業務は,作中のプレイヤーキャラクター,エネミー,ボス,NPCなどの動きのアニメーションを制作することだ。カットシーンやQTE,シャドウの時間停止能力を用いたときの演出,リザルト画面のシーンなどがそれにあたる。
彼らの具体的な業務は,キャラクターモデルのリグのセットアップ,アニメーションリストの作成,インゲーム挙動の調整,開発初期のイメージムービーの作成などとのこと。
なお,ストーリーやボス演出は渋谷氏らのイベント班が担当しているそうだが,タイミングによってはそれぞれのメンバーが現場を行き来し,一緒に作業を進めることもあったという。
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前提となるキャラクターモデルが完成し,骨入れの設定が終わった段階で,アニメーションパートがリグのセットアップを行い,アニメーションを制作していく。それが完成したら,「Asset Studio」という内製のツールでリソースを分割管理する。
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作業中は「ASM(Animation State Machine)Editor」で,アニメーションのステートもプログラムパートと協力して調整する。
ゲーム内でキャラクターが自然かつ魅力的に動くよう,実機で動作を確認しながら,細かな調整を繰り返していく。
アニメーション制作にはAutodeskの「Maya」を採用。リグのセットアップから実際のアニメーション作成までを一貫してMaya上で作業する。またエネミーやボスなど,構造が特殊なキャラクターには,柔軟な対応ができる「mGear」や「Dreamwall Picker」も活用している。
さらに,こうした作業を効率的に進めるための内製ツールも別途用意して,業務環境の最適化にも取り組んでいるという。
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本作では「ソニック」と「シャドウ」という対照的な個性を持つキャラクターたちが主人公となる。とくにシャドウはシリーズにおいてクールでミステリアスな存在であり,アニメーションを通じて,彼ならではの魅力を表現するのがミッションとなる。
そんなシャドウをかっこよく見せるためのアプローチとして,アニメーション制作では以下の技法を重視したそうだ。
■ポージングとシルエット
キャラクターのかっこよさは,立ち姿だけでも伝わると郷田氏は強調する。等身が低いキャラクターは,手脚の細かなポーズやシルエットのバランスによって印象が大きく変わるので,例えば立ちポーズの場合はまず重心を意識し,自然に見えるようバランスを取っていく。自然な重心を意識すれば,キャラクターの魅力を最大限に引き出せる。![]() |
またポージング時は,ポーズを大げさに表現することによって,静止画でも動いているようなバランスを追求した。各部位のシルエットが重なることは避け,手足を明確にするように配置し,動きを生み出す。
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■回転と円による動き
人の動きは,実は「回転の連なり」で構成されている。肘や膝を曲げる動作も,肩から肘,肘から腕へと回転の動きが連動して伝わることで,人体としての自然な動きが生まれる。これはキャラクターのアニメーションも同様だ。例えば回転キックのようなアクションは,体全体の回転軸を胸や腰に設定し,腕や脚を弧を描くように動かすことで,ダイナミックな動きを表現できる。
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攻撃時の動作は直前に「ため」を入れることで,インパクトのある動きを強調し,メリハリをつけた。また回転方向に顔や視線を向けることで,キャラクターの動きの意図や方向性を伝える手法も取り入れた。
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■スペーシング
スペーシングとは,アニメーションのフレームの間隔や,タイミングの割り振りを調整することだ。ソニックシリーズではスピード感のある動きが求められるため,動きの尺も短く,そのぶんアクションも速く見えてしまう。その中で動作の流れをしっかりと伝えるために,省略する部分と見せる部分にメリハリをつけた。![]() |
シャドウの能力「ドゥームパワー」では,スペーシングを調整し,力を発動させる瞬間のポーズの尺を長く取った。こうして力強いポージングをプレイヤーにしっかりと見せ,印象に残そうとした。
また,キックを繰り出すときなどは,スピード感やインパクトをより強調するために,中間フレームを削るなどの工夫も施している。
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■ストレッチ&スクワッシュ
ストレッチ&スクワッシュとは,アニメーションでの動きや感情表現を豊かにして,説得力を持たせるための技法だ。デフォルメキャラクターのアニメーションにはとくに効果的で,その動きに柔軟性や勢い,迫力をもたらすことができる。
例えばキャラクターがジャンプする前に身体を縮めるスクワッシュと,ジャンプ後の勢いで身体を伸ばすストレッチを適用することで,動きの速さや力強さを視覚的に強調できる。
これはドゥームパワー使用時のシャドウに羽が生えるときや,変身してタコのような軟体動物の姿になるときに活用されている。
ただし,これらが過剰になるとかえって不自然に見えてしまうので,適度なバランス調整も必要となる。
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没入感とテンポを損なわないイベントシーン演出
渋谷氏らイベント班は,ゲーム全体の演出パートを担当した。インゲームを盛り上げるアクションシーンやストーリーを印象的に見せるための,さまざまな演出を手がけてきたとのことだ。
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イベント班の担当範囲は広く,演出の考案からレイアウト,アニメーション,ライティングなどの絵作りの工程,さらにオーサリングや字幕配置の最適化まで,イベント全般にわたって担当する。基本的に絵コンテは用意せず,概要書や字コンテをもとに演出内容を考えるという。
チームメンバーはアニメーター出身者が約7割を占めており,映像やアニメ業界から中途入社した人材も4割ほど在籍している。こちらも制作にはMayaを使用し,アニメーションはすべて手付けで制作している。
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渋谷氏はまず,本作の「ドゥームゾーン」での“入り演出”から紹介した。入り演出とは,通常のアクトからドゥームゾーンへ移行するときに発生する,トランジション演出のことだ。
この演出は,以下に挙げていく3つのステージで発生し,シームレスな遷移と派手なビジュアル性を生み出している。
入り演出に求められたのは「没入感のあるゲーム体験」「ゲームのテンポ感を損なわない」「世界観やストーリー,キャラクターの状況が伝わる」「インパクトのあるビジュアルで驚きを与える」の4つだ。
これに応えるため,ステージ移行時にフェードをはさまずシームレスにつなげた。演出の尺も15〜20秒程度の短いものとし,さらにシャドウの成長や適応力を演出に盛り込むなどの工夫もしている。
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■スペースコロニーアーク
倒したはずの宿敵が再登場し,崩壊する通路からシャドウが異空間へと放り出されるシーン。通路の崩壊をダイナミックな映像表現で演出し,プレイヤーに世界観を印象づけている。カメラワークはステージ変化が伝わるよう,あえて動きを押さえたインゲームに近いアングルで没入感を維持している。時間は約25秒。
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■レールキャニオン
シャドウがレール上を軽やかに進んでいくが,最後は空間に放り出されてしまう展開。幾重にも連なったレールが現れることで,スピード感やダイナミックさを強調した。360度回転するカメラワークにより,アークとの違いを出している。時間は約15秒と短い。![]() |
■市街地
シャドウが空から降ってくる破片を華麗に避けながら,彼がこの世界に慣れてきた様子を表している。破片を足場にして駆け上がることで,シャドウの成長や適応力を描いている。カメラワークは動きを縦方向にすることで,これまでと変化をつけ,クイックな寄り引きで画面に勢いを生んでいる。時間は約16秒。
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キャラクターを見失わせないための「視線誘導」における8つのテクニック
スピード感のあるゲームのアクション演出では,カメラやキャラクターの移動速度,背景やエフェクトの情報量などで,画面が見づらくなることがある。その対策として活用するのが「視線誘導」だ。
プレイヤーの目線を意図した場所に誘導することで,見づらさやキャラクターの埋没を解消する。そのための8つのテクニックが挙げられた。
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[1]フォーカルポイント
フォーカルポイントとは「注視点」のことで,シーンの重要な要素を画面中央に配置することである。例えば見せたいキャラクターやアクションなど,重要視するものはできるだけ中央に置くことで,プレイヤーが見失わないようになる。また,この考え方はインゲームとイベントシーンの見た目の差を減らし,没入感の維持にも効果的とされる。もし見せたいものが画面中央から外れるときは,速度を抑えたり,周囲を暗くしたりと,見やすさのための工夫が求められる。
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[2]消失点
人の視線は線の収束先にある消失点に,無意識に引き寄せられる傾向がある。そこで実際のシーンでは,キャラクターや注目してほしいアクションを消失点の近くに配置し,さらにそこに向かう動きを加えることで,プレイヤーの視線を集めやすくする。この消失点は画面の中央から少しずらすことで,画面全体に動きや方向性を持たせられる。実際に画面に線を描くのは難しいので,視線誘導を意識したいときは,背景やオブジェクトの配置,あるいはエフェクト,ライティングなどで意図的にラインをつけると,より自然に誘えるとのこと。
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[3]スクリーンディレクション
スクリーンディレクションは,プレイヤーが視覚的にストーリーの流れを把握できるよう,ゲームの進行方向やオブジェクト配置を方向付けする技法だ。イベント全体を通じて,各種配置に統一感を持たせることで,映像を見る際に視線を迷わせず,自然と理解させるようにする。具体的なルールとしては,ストーリーの進行方向は左から右を基本として,主人公は画面左側に配置するようにしている。これにより,これから物語が進んでいく方向(右側)を自然と理解させやすくなる。
キャラクターのステータスの配置は,弱い立場のものを左に,強い立場のものを右に置くことで,立場や優劣の関係がひと目で分かるようにした。ただし,このルールを守り続けて似たような構図が続かないように,ときには逆のレイアウトを使うこともある。
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[4]配置と面積
[3]でも紹介した,配置と面積で力関係を見せる手法。バトルシーンや対立構造を演出するとき,画面内のキャラクターが占める面積や配置を工夫することで,力関係や立場を直感的に伝えられる。強敵やボスは画面の高い位置,あるいは中央に大きく配置し,その存在感を強調する。逆に弱いキャラクターや劣勢側は,画面端や低い位置に小さく配置することで,追い詰められた印象を与えられる。
配置や面積の工夫によって,セリフや説明がなくとも状況や力関係が伝わりやすく手法であるため,渋谷氏も「この8つのポイントの中でも,とくに効果が大きかった」と語っていた。
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[5]ライティング/ポストエフェクト
ライティングやポストエフェクトにより,重要なものを背景から切り離す手法。人の目は明るい場所や強いコントラストに引き寄せられるので,見せたい情報やキャラクターを目立たせるために,画面に意図的に明暗の差をつける。重要なキャラクターやアクションは明るく鮮明に,それ以外の部分は暗くぼかすことで,プレイヤーの視線を誘導する。このとき,現実的な正しさや整合性よりも,見た目の雰囲気や分かりやすさを優先して調整するのが効果的だという。
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[6]予備動作/顔と視線の向き
画面内にキャラクターの顔があると,人はまず顔へと引き寄せられ,次にキャラクターの視線や体の向きへと視線を徐々に映していく。この効果は速いアクションシーンでも視線誘導の手助けになる。例えば,画面の外から敵が高速でフレームインしてくるとき,なにもしないとプレイヤーはその動きを予測できず,追いきれない。だが,キャラクターに敵の出現方向に視線を向けさせていると,プレイヤーは次になにかが起こる方向に,自然と注意を向けてくれる。
こうした動きや順番は,実際の人間の直感的動作と同じなので,絵としてもより説得力のある仕上がりになる。
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[7]軌跡エフェクト
アクションシーンでは,キャラクターの動きが速かったり,画面のキャラクターが小さく映ったりする場面もある。そのままでは動きを見失いやすくなるので,エフェクト班と協力して,移動時の「軌跡エフェクト」を積極的に活用した。
動きを点でなく線で見せると,動いた経路が視覚的に残り,視線で追いやすくなる。また,キャラクターが小さく映るときや遠景でも,軌跡エフェクトがあると見失いにくくなる。さらに見た目にも迫力やスピード感が増すため,演出として映える効果もある。
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[8]カメラワーク
アクションシーンでは,つい派手で複雑なカメラワークを使いたくなるが,そこをあえてシンプルにする。製作中の仮背景などでは見た目が物足りなく感じてしまい,つい激しいカメラワークを入れたくなるが,実際に素材がそろった状態で見ると,情報料が多すぎてなにが起きているのか分かりにくくなることが多い。そのため,最終的なカメラの動きはできるだけシンプルにし,キャラクターが画面内を大きく動くようにすることで勢いを生む。
アニメーションや背景に情報量があれば,カメラワークはシンプルでも,キャラクターや背景の魅力をより伝えやすくなるわけだ。
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渋谷氏はこれらの視線誘導テクニックを活用することで,スピード感や迫力を損なわず,見やすいアクション演出を生んだという。
またこうした技術は,セガ社内の教育プログラムで得られたものが多いとのこと。アートワークや映像理論,ツールの勉強会などを通じて実践的な知識を深める社内教育プログラムに取り組んだおかげで,基礎知識の補強と実践的な知識の両方をバランスよく身につけられたと述べた。
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- CERO A:全年齢対象
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- ソニック ザ ヘッジホッグ
- プレイ人数:1人
- Nintendo Switch 2:ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
- Nintendo Switch 2
- PS5:ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
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- Xbox Series X|S:ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
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- PS4:ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
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- Nintendo Switch:ソニック × シャドウ ジェネレーションズ
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- ライター:稲元徹也
- CEDEC 2025

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