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Access Accepted第835回:賭博企業のスポンサー契約を解禁したRiot Games
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印刷2025/08/11 11:00

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Access Accepted第835回:賭博企業のスポンサー契約を解禁したRiot Games

画像ギャラリー No.006のサムネイル画像 / Access Accepted第835回:賭博企業のスポンサー契約を解禁したRiot Games

 将来的には数十億ドル規模に達すると予測されるeスポーツ賭博市場は,まだ規制が整備されておらず,過去10年以上にわたって多くの問題を引き起こしてきた。そんな中,「League of Legends」などで知られるRiot Gamesが,公式トーナメントに参加するプロチームがスポーツ賭博企業からスポンサーを受けることを公認すると発表した。未成年のプレイヤーや視聴者が多い分野だけに,この決定はゲーム業界内外で波紋を広げている。


急成長するeスポーツ賭博の現状


 スポーツ賭博(スポーツベティング,スポーツブックとも呼ばれる)は,ヨーロッパ主要国では古くから合法化されており,とくに推しチームを持つ若い男性層に支持されている。2018年に一部の州で合法化されたアメリカでは急速に利用者が増加し,2024年のスポーツ賭博による税収は前年比32%増の28億ドル(約4127億円)に達した。世界全体のスポーツ賭博市場は近年およそ900億〜1000億ドル(約13兆〜15兆円)規模と推計され,その中でeスポーツ賭博は数十億ドル程度と,まだ全体の一部にとどまっているが,急成長分野として注目を集めている。

 日本ではスポーツ賭博は厳格に規制されているが,競馬,競艇,競輪といった公営競技は合法だ。近年では海外発のベッティングアプリが普及し,国内でもその存在が注目されるようになってきた。対象はサッカーや野球,オリンピックから学生競技まで幅広く,eスポーツも例外ではない。

2024年には同時視聴者数が685万6769人も達した「League of Legends」のLoL Esportsトーナメント。2025年の賞金総額は734万ドルにも達する
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 しかし,eスポーツにおける賭博は過去に多くの不祥事を生んできた。2014年には「Counter-Strike: Global Offensive」(CS:GO)の国際大会で,スポンサー企業と一部参加チームの間で合意による試合操作が発覚。関係選手はコミュニティから追放され,この事件をきっかけにブックメーカーの認可制や大会の監督を担うEsports Integrity Commission(ESIC)が設立された。その後も,人気YouTuberがスキン(装飾アイテム)を現金同様に扱い,未成年でも賭けに参加できる仕組みを運営していた事件や,試合中にマップ全体を監視できる“コーチングバグ”を悪用した不正などが繰り返し明らかになっている。

 さらに,当連載「第556回:大きな議論になった『ルートボックス』」でも取り上げたように,欧州ではガチャ商法がギャンブルと見なされ,厳しく規制される傾向にある。こうした議論は,直接的に金銭を賭けるeスポーツベッティングにも波及しつつあり,運営側はコンテンツや広告の露出方法に一層の配慮を求めらるだろう。

ローンチから5年が経過し,サービスとしても円熟してきた「VALORANT」。まだ乗り越えるべき問題も多いeスポーツ賭博分野でも,台風の目になるのだろうか?
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スポーツベッティング企業のスポンサー受け入れへ


 こうした微妙な領域に,Riot Gamesが本格的に踏み込んだ。同社は公式ニュースブログで,LoL EsportsおよびVALORANT Champions Tourの“ティア1”国際トーナメントに所属するトップチームが,スポーツベッティング企業とスポンサー契約を結べるようになると発表した。パブリッシングおよびeスポーツ担当社長のジョン・ニーダム(John Needham)氏によれば,この措置は南北アメリカ,ヨーロッパ,中東,そしてアジアの一部地域に限られ,対象は厳密に選定されるという。

 同社によれば,賭博企業の広告やコンテンツは公式の大会配信やSNSには表示されず,露出はユニフォームやチームが運営する独自チャンネルに限定される。これにより未成年層への直接的なアプローチを極力避ける方針だ。スポンサー料はチームのトレーニング費,賞金原資,大会設備投資などに充てられる。

未成年への露出も多いゲームエンターテイメントだけに,慎重な取り組みが必要だという業界内外の声も多い
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 さらにニーダム氏は,Sportradarの統計を引用し「LoL EsportsとVCTだけで2024年には世界規模で107億ドル(約1兆5740億円)に達したが,その70%は無許可企業による違法賭博だった」と指摘。健全な環境を提供することが,業界の持続可能性に不可欠だと強調した。

 つまり,未成年が参加したり,不正な行為に巻き込まれたりするといったリスクを放置せずに,ファンが健全に賭けをできる場を提供するためにも,eスポーツでは未開拓とも言える賭博企業のスポンサー参入に踏み切ったわけだ。

 長らくeスポーツ賭博市場では「Counter-Strike」シリーズが世界シェア50%超を占めてきたが,アメリカではすでに「League of Legends」が逆転。「VALORANT」も2025年第1四半期にはシェアが倍増しており,今回のRiot Gamesの決断は,この勢力図をさらに塗り替える可能性が高い。

eスポーツ賭博市場は世界的に「Counter-Strike」シリーズが60%近い圧倒的シェアを持っている。だが,アメリカ市場では「League of Legends」が首位の座を奪っており,「VALORANT」も2025年第1四半期には前年同期比でシェアが2倍に拡大するなど,急成長を遂げている(画像はSharprより)
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 一方で,賭博企業との提携は常に社会的リスクを伴う。未成年保護や不正防止,地域ごとの規制適合など,クリアすべき課題は山積みだ。スポンサー解禁が業界全体の信頼を高める一手となるのか,それとも新たな火種となるのかは,Riot Gamesの運営姿勢にかかっている。

 「合法的で安全な賭けの場を提供する」という理念は,聞こえはいい。しかし,それを実現するには透明性の高い監視体制と,国・地域を越えた規制調和が欠かせない。今回の決断は,eスポーツが単なるゲーム競技から“グローバルスポーツ産業”へと進化するうえで避けられない通過点ともいえるだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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